『South of Midnight』: 予告編に隠された真実 – Compulsion Games 独占インタビュー
Xbox Games Showcase 2023 で初公開された『South of Midnight』は、アメリカ南部を舞台に、マジック リアリズムの表現を使った新しい三人称視点のアクション アドベンチャーです。Compulsion Games (『Contrast』『We Happy Few』など) が開発し、Xbox Series X|S (Xbox Game Pass 対応)、Windows PC (PC Game Pass 対応)、Steam で発売されます。今回公開したトレーラーでは、場所やトーン、ヒロインの Hazel、世界中の超自然現象を鎮める彼女の使命などが描かれていますが、多くの謎を残すものでもありました。
でもご安心ください! 今回、クリエイティブ ディレクターの David Sears 氏と、ナラティブ プロデューサー兼クリエイティブ スペシャリストの James Lewis 氏の二人に、このミステリアスで魅力的な新作ゲームについて、たくさんの詳しい話を聞くことができました。ストーリーやインスピレーション、魔法やモンスターまで、『South of Midnight』に関する独占インタビューをお届けします。
始まりの物語
今回公開した『South of Midnight』のトレーラーは、世界観やストーリーを感じさせるものですが、その全貌はよくわかりません。Sears 氏は、本作が「アメリカ南部の地形、地質、文化、社会、歴史的に興味深い地域」にインスパイアされていると述べています。
ゲームの舞台は現代世界ですが、旅する舞台はほとんど田舎で、大都市と大都市の間にある場所や、そこに潜む不思議な感覚や危険をゲームに反映しています。「裏庭のフェンスを飛び越えれば、その先にはモンスターが本当に存在する……というコンセプトから生まれた作品です」と Sears 氏は言います。「文明の影響から離れれば離れるほど、世界はより不思議なものになるのです」
その世界は、ゲームではあまり見られない文学や映画ジャンルの影響を受けて、取り入れています。Sears 氏によると、「マジック リアリズムは、南部ゴシックの世界観の 1 つです。この説明をゲームの中で多く語るつもりはありませんし、それはマジック リアリズムの精神とは異なるものになります。我々は、ただ受け入れてもらえるだけの説明をしたいのです」
「これまで南部は過小評価されているような気がしており、そこは素直にラブ レターを出すに値する場所であり、スポットライトを浴びるべき場所なのです」
アメリカ文学の巨匠ウィリアム フォークナーの作品から映画「狩人の夜」まで、開発チームはプレイヤーにとって新たな体験となることを目指し、ゴシックのレンズを通して現実の地域を正直に反映したゲーム世界を作っています。「『South of Midnight』の世界は、間違いなく実際の南部と同じように、魔法のようにリアルな場所です」と Sears 氏は続けます。「南部は今までのゲームにあまり登場しない、蒸し暑く、セクシーで、ミステリアスな場所です。国内を歩き回ったとしても、そこで見たり聞いたり起こったことは”案外あるのかもしれない”と思ってしまいますが、南部はそれ以上の何かを感じます。これまで南部は過小評価されているような気がしており、そこは素直にラブ レターを出すに値する場所であり、スポットライトを浴びるべき場所なのです」
Sears 氏と Lewis 氏は、ストーリーに関しての詳細は口を閉ざしていますが、Hazel が壊れた世界を修復するために旅に出ること、彼女が神話上のクリーチャーに挑むこと、という点についてはわかっています。そして、それは奇妙なことになるのです。
「このゲームは、ミシシッピ州の忘れられた農場や廃墟を歩き回ったこともインスパイアを受けた要因のひとつです」と Sears 氏は説明します。「歩き回ったときに見たものは、南北戦争から大恐慌の跡だけでなく、もっと現代的な奇妙でものもありました。例えば、人形の頭が釘で打ち付けられた木がありました。人里離れた場所に、なぜそんなものがあるのでしょう? 誰かがわざわざ人形の頭を森の中に運んできて、この木に釘で打ち付けた以外に考えられません。そして、それこそが『South of Midnight』の世界なのです。現実の世界というのは、私たちが思っている以上に奇妙なものなのです」
こうしたことが相まって、ゲームではあまり表現されないような設定やトーンに仕上がっています。そうした世界観は、登場人物の目を通して見ることができます。
ヒロイン
トレーラーに登場したヒロインの Hazel は、外見的には自信に満ち溢れ、軽口を叩いています。勝ち気な主人公であることは明らかです。物語は、社会から取り残された架空の町 Prospero から始まります。そこで、彼女は保護者としての役割を担うことになりました。
しかし、Compulsion Games による作品の鍵は、ただ真っ白なキャンバスに絵を描くだけではありません。Hazel は、私たちがたまたま旅に同行した実在の人物だと感じられるようにデザインされています。Hazel は、何度も失敗を繰り返したり、母親との複雑な関係だったりで、社会的な不公正をたくさん経験しながら成長してきました。彼女は皮肉屋で世の中に幻滅しており、予告編で見られるユーモアは本物であると同時に防御策としての言動なのかもしれません。そして Compulsion Games は、黒人女性を主役に据えたことで、彼女を正しく表現する責任があることもわかっていました。
「黒人女性を主人公に据えることは、残念ながらビデオ ゲーム……特にこのような規模のゲームでは、まだかなり珍しいことだと思います」と Sears 氏は言いました。「表現が限られていることの悩みの 1 つは、1 人のキャラクターが文化のあらゆる側面を表現することに大きなプレッシャーをかけてしまうことだと思います」
Sears 氏は続けます。「この舞台で黒人女性の物語を描くには、もうひとつ複雑なレベルが必要で、チームは好奇心と共感をもってそれに応えなければなりませんでした。これに対するアプローチは、チームに適切な表現を持たせることから始めました。ナラティブ チームに黒人女性や有色人種の女性を招き入れることは、Hazel というキャラクターを描くには必要な要素でした」
さらに、「Hazel というキャラクターが際立っている理由は、現実の人々が持つのと同じ問題を彼女が多く抱えていて、ヒーローになることを学ぼうとしているので新鮮だからだと思います」と Sears 氏は付け加えました。「でも、彼女は止められないんです。そして、彼女は自分自身を見つめ直し、より良い場所にするために世界へ出て行く、という物語です」
その結果、Compulsion Games は、ゲームの中で私たちが学び、愛していく人間として、完全な形でキャラクターを作り上げました。しかし、Hazel は私たちにとってまったく馴染みのない存在です。それは、ある重要な理由からです。
「Hazel の力は、世界に出現したモンスターを単に破壊するのではなく、モンスターの侵入を許してしまった世界そのものの裂け目を修復することにあるのです」
魔法
トレーラーの最後には、Hazel が魔法を使うシーンが映し出されています。戦闘にも移動にも使える「Weaving」は、『South of Midnight』での交流の根幹をなすもので、これまでのビデオ ゲームにあったような「手に火の玉を持つ」アプローチとは大きく異なるようです。
「フラクタル幾何学が編み物やドイリーとして表現されており、すべてがテキスタイルをテーマにしています」と Sears 氏は説明します。「基本的には、宇宙を構成する繊維を、プレイヤーが使用するために有用な形に織り上げたり紡いだりするのです。」
Hazel のような「Weaver」(Weaving を行使する存在) には、宇宙がエネルギーに満ちた半自律的な繊維で構成されていることを深く理解する能力が備わっています。宇宙には意図がありますが、時にはそれが崩れることもあります。つまり、魔法はすべての人、場所、ものを構成する壮大なタペストリーの裂け目を修復するために存在するのです」
つまり、 Hazel の力は、世界に出現したモンスターを単に破壊するのではなく、モンスターの侵入を許してしまった世界そのものの裂け目を修復することにあるのです。そして、そのクリーチャーは……。
「目撃証言や写真による証拠もないのに、存在するかのように生き物に関する既存の物語を扱うのは、とても自由な体感でした」
クリーチャーたち
予告編では、実際にその姿を見ることはできませんが、Hazel 自身が描いた絵から、それが「アルタマハ・ハ」であることがわかります。『South of Midnight』のすべての超自然的脅威と同様、この「アルタマハ・ハ」は、深南部の実在する民間伝承に基づいています。ヨーロッパ、カリブ海、アフリカなどの豊かな文化が混在するこの地域では、独特の口承伝承があり、このゲームではそうした伝承や伝説を元に珍しい生物を登場させています。ここでも、Sears 氏自身がこの地域で過ごした幼少期がベースになっています。
「目撃証言や写真による証拠もないのに、存在するかのように生き物に関する既存の物語を扱うのは、とても自由な体感でした。私の祖母は、いくつかの生き物について、迷信のレベルにまで落とし込んだ短いお話をよくしてくれました。玄関にある屋根の天井を青く塗ると、ヘインツ (南部の民話に登場する悪霊) が入ってこられない、といったものとかありますが、ヘインツについて知っているのは、みんな基本的にこれくらいなのです」
Compulsion Games はひとつの解釈に幅を持たせて、敵のアイデアを自由に膨らませています。「ヘインツは、青が見えるから入ってくることができません。それは川だと思うからです。彼らは非常に視力が悪いのです。こうした理由により、彼らの行動のいくつかが説明できます。つまり、奇妙な文化的考古学と伝承をリバース エンジニアリングすることによって、クリーチャーの物語と生物学を作り出したのです」
しかし、『South of Midnight』の世界で見つかるのは、真のモンスターだけではありません。Lewis 氏は、モンスターが Hazel にとって最大の問題ではない可能性さえ示唆しています。「さまざまなクリーチャーを見つけたうえで、主人公はそのクリーチャーをどう見ているのか。ゲーム内の他のキャラクターと重ね合わせることができると思っています。”脅威の正体はどこにあるのか”ということを、主人公は考えるべきなのです」
トレーラーは、そこにヒントを与えてくれるかもしれません。
謎めいた Shakin’ Bones
Hazel に会う前に、私たちは Shakin’ Bones に会うことになります。予告編の未見のモンスターとは異なり、これは Hazel の旅にとって自律性と重要性を持つキャラクターのようです。そして、彼は必ずしも Hazel の味方とは限りません。
「彼はアルコン、つまりエンターテイメントの原型のアイコンです」と Sears 氏は説明します。「彼は、十字路で悪魔と契約したと謂われる Robert Johnson の伝説にインスパイアされており、このプロジェクトのリサーチの一環として、私たちは実際の場所を訪れもしました。Shakin’ Bones は不死身の人物で、ギリシャ神話に登場する渡し舟の船頭、カロンに似ています。彼は、現実世界からより刺激的な場所へとあなたをエスコートします」
アルコン (グノーシス主義者の用語で、ユニバースの建設者を意味する) という考え方は、私たちが旅の途中で、それぞれが特定の影響領域を持ち、この不死身の人物にもっと出会うことを暗示しています。Shakin’ Bones は、エンターテインメント アルコンとして、ブルースのスタンダード曲「Death Don’t Have No Mercy」を演奏しています (原曲は伝説の牧師 Gary Davis 氏によって作られたものです)。
「ゲーム デザインやアート ディレクションと同じように、音楽のデザインもここまで真剣に取り組んだのは、このゲームが初めてです」
音楽について
「音楽は『South of Midnight』にとって非常に重要です」と Sears 氏は熱く語ります。「本作のコンポーザーは、アート ディレクターのように、ゲーム内の重要な場所を統一したコンセプト アートのようなものを持っています。ゲームに登場するさまざまなクリーチャーの王国を表現するためのコンセプト ソングを作りました。殺人バラードや悲しい子守唄など、さまざまな曲を書いています。音楽は、私たちにとって原動力であり、魔法システムの仕組みと響き合っています。移動と戦闘に関わる音楽は、その意図がかなり明確です」
物語の世界における音楽は、私たちがいる本当の世界の一部を確固たるものにするものでもあります。「アメリカ南部には、ブルースやゴスペル、民族音楽など、すぐに連想できるサウンドがあります。この地域を舞台にしたゲームなら、そうした豊かな音楽性に感謝することなく開発を進めることはできません」
Sears 氏はこう付け加えます。「マップ全体は、南部で最も興味深くユニークな場所をまとめています。また、音楽もそのように表現しています。ゲーム デザインやアート ディレクションと同じように、音楽のデザインもここまで真剣に取り組んだのは、このゲームが初めてです」
アート ディレクションも一筋縄ではいかないので、音楽も同様にかなり真剣な仕上がりになっているのでしょうか。
ビジュアル
『South of Midnight』のトレーラーは、細長いキャラクターのシルエット、絵画のようなテクスチャー、豊かな照明など、目を見張るようなルックスを備えています。映画『コララインとボタンの魔女』やストップ モーション アニメーションで知られる Rankin/Bass の作品を参考に、「アート スタイル全体が非常に手作りで、ストップ モーション用に作られたセットや模型のような雰囲気になっています」と Sears 氏は語りました。
「よく見ると、キャラクターの服の繊維が通常より少し粗く、緩んでいることに気づくでしょう。まるで、ミニチュアの世界から飛び出してきたような、もっと大きな人が着ているような服なのです。もちろん、これは一例に過ぎませんが。全体的に、写実的なオブジェクトを再現するのではなく、すべてが手作業で作られているような雰囲気を追求しており、それによって民話の中にいるような感覚を生み出しています」
これはすべて Compulsion Games 独自のスタジオ DNA の一部です。「私たちは常に、ゲームのアイデンティティを構築、強化するアート ディレクションを模索し続けています」と Sears 氏。「これは、ゲーマーにとっても興味深いことですが、ゲームを制作している私たちも同様に興味深いことなのです。このプロセスは、オブジェクト、キャラクター、テクスチャーなどを、現実世界のものをそのまま複製してゲームに登場させるのではなく、スタイルに合わせて解釈することを重視しているのです」
Compulsion Games が目指したゲーム、つまり個人的であり、時には物語が挑戦的である、これまでにない体験ができるゲームを作ることができたのは、何よりもこうした取り組みができたからです。
「他のいろんな作品を楽しんでいても、Hazel のようなキャラクターに出会ったことがない人はたくさんいるでしょう」
クリエーション
「マイクロソフトとの仕事は素晴らしいものでした」と Sears 氏は言います。「何も恐れずにゲームを作ることができたのは、貴重な経験のひとつになりました。私にとってこのゲームはとても個人的なものだったので、我々がやろうとしていることを理解してくれない人やサポートしてくれない人とは、一緒に作りたくなかったのです。Xbox は、とても心強く、とても協力的でした。ゲーム開発でそれを得られるのは、かなり稀なことです」
南部の世界とそこに住む人々を適切なレベルでリアルに表現するために、Compulsion Games は Xbox のユーザー研究グループと黒人従業員リソース グループを活用しました。Lewis 氏の本業は Xbox のデベロッパー アクセラレーション プログラムの運営であり、このゲームにおける Lewis 氏の役割もコラボレーションです。また、このようなゲームに必要な多様な声を作るために、コンサルティング グループの Sweet Baby Inc. に協力してもらうなど、Xbox の外部からも協力を得ました。
Lewis 氏は、このような誠実な表現への取り組みについて、「幅広いチームのさまざまな視点から指摘してもらうことが重要です」と語ります。「誠実さを追求するのは必要なことであり、何もこれはチームや私たち自身のリサーチや精査だけの問題ではありません。アメリカ南部には、人種差別、非人道的な行為、苦痛の遺産を理解せずに舞台として使用することが難しい歴史があり、その影響は今でも感じることがあります。それは、その地域の出身者でなくても証明することができるのです」
しかし、ある場所とその人々を表現することと、彼らを取り巻く広い文化的環境を受け止めることの間には、絶妙なバランスがあります。「結局のところ、私たちは Hazel の物語を輝かせたいのです。Hazel がやるべき仕事は、人種差別や南部が抱える問題を解決することではありません」と、Lewis 氏はゲームの意図について語ります。「Hazel の仕事は、怖くて美しい世界で成長する一人の人間として見てもらう、ということです。私の妻、娘、母のような、Hazel に似た人たちが共感できるような、本物の人物にすることなのです」
つまり、Compulsion Games のオリジナリティと、他の視点や声を取り入れるという慎重さが、『South of Midnight』の存在を際立たせていると言ってもいいでしょう。
Lewis 氏は、「このようなゲームこそ、私たちのポートフォリオに必要なものだと感じています」と述べています。Xbox のファンは、このゲームを遊びたくなると思います。他のいろんな作品を楽しんでいても、Hazel のようなキャラクターに出会ったことがない人はたくさんいるでしょう。Compulsion Games がこのような体験を提供することは、Xbox のゲーム ファンにとって、とても重要なことなのかもしれません。遊べる日がとても楽しみです。
※この記事は米国時間 6 月 11 日 に公開された “South of Midnight: The Hidden Details in that Gorgeous Reveal Trailer – an Exclusive Interview” を基にしています。