我々の新たなチャレンジとして『百英雄伝』というタイトルを発表しました。
制作メンバーには一つの想いがありました。
それは、「そろそろ自分たちが望む本当に面白いものを作らないか?」という純粋な気持ちです。
我々にとって一番の喜びは、ファンが面白かったと喜んでくれる事、その声を聞くことです。
そのためだけを目指したタイトルを作ろう。それが『百英雄伝』の出発点です。
このタイトルを成功させるために、
多くのファン、力を与えてくれる世界中の英雄が現れてくれる事を願っています。
村山吉隆氏
本日発売した『百英雄伝』は、村山吉隆氏の率いる Rabbit & Bear Studios が 2020 年に実施した Kickstarter プロジェクトが、実に 46,307 名のバッカー (支援者) の思いを受ける形で開発が進められてきた、JRPG の伝統と意思を受け継ぐ作品です。
『百英雄伝』の発売元である 505 Games Japanのオフィスで 4 月 10 日に実施されたイベントでは、発売間近となった本作の試遊に加え、生みの親でもある Rabbit & Bear Studios のチームに話を伺う場が設けられました。Xbox Wire Japan 編集部、そして Xbox DACH の担当者 (※トップ画像中央) が合同で実施した長編インタビューの一問一問に真摯に回答したチーム メンバーの言葉の端々からは、『百英雄伝』が如何に村山氏の率いた Rabbit & Bear Studios の想いを体現した作品であるのかが伝わってきました。
インタビューに応じた Rabbit & Bear Studios チームのご紹介
河野純子氏: Rabbit & Bear Studios 代表、イラストレーター
村上純一氏: プロデューサー、アート ディレクター
小牟田修氏: ディレクター
2020 年 7 月に Kickstarter が開始となってから、ついに発売となります。発売直前となった今の心境は?
村上氏: 実はまだ全然、気持ち的に落ち着いてなくて。ようやく皆さんにお届けできるという安心感はあるのですが、まだ発売してみないとわからないこともあります。気持ち的には不安なところもありますが、皆で長い期間をかけて頑張ってきて、やっとここまで来たなという達成感みたいなものはあります。
小牟田氏: もう三年半ぐらいの長きに渡って制作してきており、休みなく全力でチーム全員が走り続けてきたので、みんなもうヘトヘトです (笑)。パッチ対応などもスタッフ一丸となって頑張っている中ですが、ようやく発売という一区切りがつきます。ちょっとホッとしている反面、村上も言っていた通り、2 週間後にせまる発売に合わせて聞こえてくるであろう、ユーザーの反応をドキドキしながら待っているところです。
河野氏: 二人と気持ちは同じなので、大体喋っていただいちゃいました。コンシューマー タイトルが久しぶりすぎて、「そうか、最近は結構みんなもうパッチでやっちゃうから本当にぎりぎりまで作り続けなくちゃいけないんだな」と感じています。昔はマスター アップしてしまえば、あとは商品が物理ディスクになるまで一息つけていたんですけど、まだまだ作り続けている感覚ですね。発売されて、皆さんが遊んでくれたら「終わった」と思うのかな……そんな心境です。
『百英雄伝』の見どころ、とくに注目してほしい部分を、それぞれの立場から教えてください。
河野氏: なんといっても登場するキャラクターが多いので、それぞれのキャラクターが輝ける本拠街の施設、たとえば劇場などでキャラクターを組み替えるなどして、遊んでもらえるところまで遊びつくして欲しいです。
小牟田氏: 『百英雄伝』というタイトルの通り、キャラクターの数がとにかく多いですよね。本当に気に入ったパーティーで冒険に出て戦ってもらいたいですし、ちょっと途中で出会ったキャラを使ってみて……といった感じでキャラを入れ替えて楽しむというのも含め、とにかく「キャラクターのバリエーション」に注目してほしいです。
普通の RPG だと一人のキャラクターにスキルを覚えさせて、個別のキャラクターを深掘りして行く遊び方が多いですが、『百英雄伝』の遊びはキャラクターの数の多様さに根付いています。育てる深みっていうのは手塩にかけたキャラクターの数になっていくわけです。ぜひ、いろいろなキャラクターを入れ替えて遊んでほしいです。
村上氏: デザイン面でのお話ですが、キャラクター一人ひとりにさまざまな思いを込めて創っているということもあり、それぞれに与えられた個性がしっかり出るような作り込みをしています。ミニゲーム一つとっても、そのゲームのためだけにキャラクターのいろいろなバージョンが用意されていますね。基本的に手を抜いたところはないと思っているので、やりこみつくして頂ければいろいろな物が見えてくると思います。ぜひ楽しんでいただきたいですね。
『百英雄伝』は「JRPGらしさ」を追究して作られたタイトルですが、とくにこだわった「JRPGらしさ」はどのような部分でしょうか。
河野氏: 一番に、ピクセル アートを融合しつつ、どのように 3D の背景を駆使すればもっとも RPG は面白くなるだろうか、というテーマが本作のスタート地点にあります。まずそこを見てほしいのと、あとはやっぱり村山が描いた物語、群像劇といったところでしょうか。戦争に巻き込まれるキャラクターたちの、心のひだみたいなところもじっくり追いかけてほしいです。
村上氏: それぞれいろいろな JRPG に対する想いや、こだわったところがあると思いますが、JRPG は物語とキャラクターの性質の描き方が独特ですよね。どこか「何でもありの世界観」という要素が加わるので、リアリティが抑えられているんです。海外の RPG はリアリティを追求しますが、JRPG の場合は激しい戦闘の後、いきなり温泉に浸かることがありますからね (笑)。場所を問わずにカード ゲームに興じることができるので、ある種なんでもありな、ハイブリッドな楽しさが内包されているのが JRPG の良さかなと私は思っています。『百英雄伝』はそこをしっかり出せていると感じます。
小牟田氏: 村山はずっと、「RPG ってなんぞや」という話をするときに幕の内弁当の話をしていたんです。いろいろなおかずが入っていて、そのどれを食べても美味しい、という。幕の内弁当のようなバリエーションやバラエティの豊富さの中に、ちゃんと一本の軸、ストーリーが通っていて、箸休めでに脇道にそれると、温泉に浸かったり、カード ゲームで一喜一憂したり、演劇にのめり込んだり……と遊びにバリエーションが用意されているんです。
本作で特にこだわっているのが、プレイヤーが脇道に逸れたとき、何に対してもゲームからちゃんとしたリアクションがある造りを徹底するという点です。セリフ一つとっても、自分で組んだパーティーによって物語中で喋る人が変わるので、そうした引き出しの豊富さ、そしてプレイヤーの選択に対して用意された展開を大いに楽しんでもらえると思っています。
では脇道に逸れますが、熱烈なサメファンとしてシャークマンという種族がどのように生まれたのかが知りたいです。
河野氏: まず最初に、主人公の少年が……みたいな話をしている段階でほぼ同時に村山が「サメ」って言い出して。
小牟田氏: サメを出すという話はしていましたね。
河野氏: そこから、サメといってもどれくらいサメなのか、何割ぐらいサメ人間なのかを検討して、ほぼサメからほぼ人間までのパターンを作りました。
小牟田氏: 村山はシャークマンの発想が最初から頭にあったんでしょうね。サメが出てくること、そしてそのサメは砂漠にいるというイメージは最初に決まっていたみたいです。
村上氏: 河野からあの最初のサメのイメージ ボードが届いたときに、私自身もとても気に入りまして。絶対にこれでいこう、というふうに決まりましたね。
河野氏: 人間だったらもうちょっと顔は前向くんじゃない? みたいな思いもありましたが、結局は真上を向いていると。
小牟田氏: 冷静に考えると、シャークマンって前が一切見えてないですよね。上と横しか見えてないはずなんで。
河野氏: でも「それがいい」ということで、シャークマンは生まれました。割と初期に。
キャラクターがストーリーを基に生まれてくることはありましたか?逆に、キャラクターの誕生を基にストーリーが展開を変えたことなどはありますか?
河野氏: 村山がどう考えていたのかという点においては、基本的にはストーリーが先でした。お話に必要なキャラクターが先にいて、それらが主軸を固めていました。途中から物語の特定の位置に置きたいキャラクターが生まれていきましたが、その場合はどうしても個性が出てきてしまったので、それらを少しやわらげることはありました。
小牟田氏: メインのキャラクター、メイン ストーリーのキャラクターや周りを固めるキャラクターは決まっていて。
そこにサメがいたと。
河野氏: そうなんですよ、そこに最初からサメがいたらしいんです。
小牟田氏: キャラから生まれた、といえばマーカスなんかは完全にキャラクターからお話が生まれました。
河野氏: アンデッドの王様です。
小牟田氏: アンケートで「アンデッドのキャラを出す」というのは決まっていたのですが、どんなアンデッドを出すか決まっておらず、Kickstarter のユーザーアンケートで 4 種類から選んでもらったんです。
河野氏: 皆さんが骨っていうから……骨になりました。
小牟田氏: マーカスのストーリーを作っていく中で、アンケートで二番だったキャラクターをライバルにしようとも固まっていったので、あのストーリーラインはキャラから生まれたお話になりますね。
村上氏: たくさんいるので、いろいろなケースがあるんです。
河野氏: メインのメインはお話が先、でしょうね。
小牟田氏: 脇を固めるキャラクター、でもキャラクターが先だったこともありますよね。スタッフの中からアイデア出ししたキャラクターとかもいます。
キャラクターの名前の基となったものにも興味があります。例えば、ダイクストラ (Dijkstra) というフリジアの古いゲルマン名やモモ ガルディスタイン (Momo Gardestein)、といったキャラクターが出てきますが、名前を決めるにあたってどういうリサーチを行ったのですか?
村上氏: 今回のキャラクター名についてはもう全部、村山ですね。僕も村山のネーミング センスが好きなのですが、名前がどこから来たのかはわからないです。僕のところに来るときには、既に決まっているんです。
河野氏: モモの名前は一部私が考えました。「ガルディスタイン」は村山が決めたのですが、名前をどれぐらい可愛くするかですごく悩んでいまして。最初はアーシェという名前が付いていたと思うのですが、もっと可愛くしようと持ちかけました。基本的に、由緒ある名前のキャラクターは古い文献などを調べて……といったリサーチを行っていたようですよ。
村上氏: 村山、河野で名前はある程度形作られてくるんですが、途中で変わったこともありました。でも最初に来る名前はイメージどおりのものが来るので、毎回そんなに悪くないですね。
河野氏: 村山が好きな音というのがあるので、その結果名前が似たキャラクターが少し多いなと感じることはあります。でも、そこは好みですから、しょうがないですね。
すんなりデザインできたキャラ、何度もデザインしなおしたキャラは?
河野氏: やりなおしたというよりは、バリエーションが決まるまで何度も会話が往復した「ペリエール」という女の子のキャラクターがいます。彼女は村山の一番のお気に入りで、4 人目の主人公として位置づけていたみたいなんです。線のデザインは割とすんなりオッケーが出ましたが、この子の着ている服はこんな色で、このパーツはこの色で、というリクエストが何回も来たことから、彼の中ではイメージが強く固まっているんだろうなと。ペリエール以外では、そこまで頻繁なやり取りは起きませんでしたね。
村上氏: 女性キャラの場合は、やり直しは何度かありましたね。
河野氏: ピンポイントで「色はこれで」といきなり指定されてくるんです。そういうことからもう変更もしようがなく、「この色をこのキャラクターに着せるんですか?」となることはありました。男性キャラでいえば、「ウェーブ」というキャラクターがいるのですが、彼のイケメン度合いがどうにも気に入らないということで、顔ばかりを何回も描き直しました。最終的にすごいイケメンになりましたけど (笑)。そんな具合に、時々デザインを見直すことはありましたが、概ねすんなりいったかなと。
『百英雄伝』ではキャラクターのピクセル アート (ドット絵) が極めて緻密ですが、これは昨今では珍しい方向性のように感じられます。どのような経緯で決定されたのでしょうか?
村上氏: 一番初めの企画をスタートした時にはピクセル アート、ドット絵の進化系のゲームにしようってところは決まっていたんです。どういうドット絵にするかを検討し始めたとき、最初は昔のゲームでも馴染みのあるようなサイズ感から始めましたが、このまま行くと河野のつくる百以上のキャラクターの個性が描き分けられないし、個性自体も出にくいと判断しました。加えて、表現そのものも少し古く感じられるということもあり、ドット絵の解像度を上げることになりました。
ただ、当然ですが解像度をあげるとそれに比例してドット数が増えるので、作業量が増えるんですよ。さらに、あまり解像度上げすぎちゃうと、今度はイラストになってしまう。いろいろ試した中で、現在のサイズであれば、テクニックが求められますが、河野が作ったキャラクターを飾る細部のアクセサリーや、デザインそのものがちゃんと表現できたんです。あのサイズ感とすることで、求められていた表現感と一致した、と。
そのほかにも、あのスケール感の中でも身長差をドット絵でも付けたかったんです。そのため、2 メートルのキャラをドット絵で表現するときには、主人公と比べて体格差をつけています。完全に測ったサイズではなくて、「体感スケール」とチーム内では言っているんですが、「人間が目で見た時に大体 160cm の人と 180 cm の人の間には、感覚でこれぐらいの身長差があるよね」っていうものを落とし込んでいます。それぞれのキャラクターに差をつけたり、昔よりかなり面倒くさい作りでしたが頑張ってみました。
ひとりのキャラクターにつき、どのくらいのアニメーション パターンがあるのでしょうか。また、そうした動きにおいて、とくに苦労したキャラクター、とくにその動きに注目してほしいキャラクターがいたら教えてください。
村上氏: やはり一番最初にプレイヤーが動かすのは「ノア」なので、彼については一番試行錯誤しました。
それに、アニメーションのパターンが一番多いんですよね。次に多いのが、バトルに参加するキャラクターでしょう。通常、町で普通に生活していることに加えて戦闘では戦闘中の待機ポーズから視点が違ってくるんです。バトル中は背景を回転させるので、違和感が無いよう真後ろから見た視点と真横から見たような視点のアニメーションをご用意しています。当然作業量は倍になりますね (笑)。あとは「英雄コンボ」という、仲間と一緒に連携をとって行う合体攻撃もあるので、特殊なアニメーションも追加されてもいます。
そのような事情から、バトルが多いキャラクターはやっぱりアニメーションが多いです。お話の中で割とよく出てくるようなキャラクター、リアクションが豊かなキャラクターにもアニメーションは多いです。例えばリャンっていうキャラクターですが、リアクションしそうなセリフしかないんですよ (笑)。
驚異的だと評判のライティング エンジンにどれだけの時間が費やされたのか気になります。影、ほこり、太陽光が驚くほどリアルで没入感がありますよね。
村上氏: 最終的に、納得する絵に落ち着くまでには二年以上かかっていると思います。
小牟田氏: 最終的な絵ができたのは、去年の中頃だったかもしれませんね。
村上氏: 最初は超ハイスペックなものを組んでみるんです。組んでみるんですが、先々のことを考えるとここまではできない、とスペックを落とすことになります。が、スペックを落とすと落としたで、今度はやりたいことができなくなり、改めて機能を追加してほしいというやり取りが発生するわけです。そうしたシーソー ゲームでエンジンが固まるまでに 2 年以上かかったと思います。最後の最後、また仕上げる時も、シーンによっては少し気に入らない部分が見えてくるんです。とにかく、ライティング エンジンはずっといじっていましたね。
小牟田氏: ポスト処理で調整もするんですけど、最終的な絵ができるまでは時間がかかりました。
『百英雄伝』を 3D とピクセル アートの融合したゲームとしてデザインするのは、長い決断プロセスが必要だったのでしょうか、それとも当然の帰結だったのでしょうか?
小牟田氏: もともと目標として、3D と 2D の融合というのを目指していました。ただ、目指した先の答えが何なのか、それが分かるまでにはライティング エンジンの完成と同じか、それ以上に時間がかかっていますね。
河野氏: なじませるっていうところが。自然に見せる、というところですね。
村上氏: いろいろなものがセットで動いていました。ライティング、カメラ アングルもそうですが、いろいろなものを同時進行させ、総合的に進める形を取っていたので、これについても 2 年以上検証を繰り返していましたね。
小牟田氏:キャラクターが歩くにしても、3D でカメラが回るので。最初の企画の時は、全キャラクター八方向からの視点が欲しいって言う話をしていたんですが、そこまでは難しいのではという話になって (笑)。結局、操作できるキャラクターは 8 方向ちゃんとある、という状態に落ち着きました。
村上氏: 映像の世界でも現実の世界でもそうなんですが、画面をかなり暗くして、彩度を落としてフィルターかけてやると格好よく見えるようにはなるんです、ごまかしも効きますし。そうした理由から映画でも結構暗くしてるシーンが多いと思います。ただ、『百英雄伝』はキャラクターごとに用意されている配色が多く、画面を暗くすることで生まれるスタイリッシュさは似合わないと感じたことから、画面全体を明るくしたんです。
その結果、ライティングや画面作りの難易度が跳ね上がり、表現を率直にしてみたのですが、3D と 2D を併せて使っているのに、逆にただの 2D 絵にしか見えなくなり、新鮮味が損なわれてしまうんです。そうした経緯から、表現をどのように落とし込んでいくか、という試行錯誤が凄く大変でしたね。
通常の戦闘 (6人パーティーによるもの)、ボス戦、一騎打ち (1vs1)、戦争と、いくつかのバトルが用意されております。それぞれの見どころやポイントなどを教えてください。
また、ランダム エンカウントを採用したのは、昔の JRPG の手触りに基づいた決定だったのでしょうか?
小牟田氏: ランダム エンカウントの採用については、JRPG だからというのが前提にあります。加えて、村山の RPG の考え方として、「この『百英雄伝』が人生で初めてプレイする RPG だとしても、必ず誰でもクリアできるようにしたい」というのがありました。RPG というと、自分で足枷をつけてプレイすれば際限なく難しくできるんですが、レベルさえあげてしまえば、そしてなおかつルールが分かれば、誰であっても先に進めて、ストーリーをクリアすることができるんです。
最初、シンボル エンカウントも検討をしたんですが、キャラクターを避けて通る選択肢が入ってくるので、レベルが上がらず攻略が難しくなり複雑になっていくということで、『百英雄伝』には分かりやすさを意識したランダム エンカウントを選択しました。
ほかにも、バトルに切り替わって「さあ戦うぞ」というシーンの遷移をはっきり分けたいというコンセプトがあったんです。ごく初期の企画のときには二案あり、片方がその場で流れるようにバトルに移る、昨今よくあるパターンのものでした。そうしたアイデアも企画段階では出てきていたんですが、切り替えをちゃんと表現したい、ということもあり、ランダム エンカウントが採用されました。
バトルそのものは、わりとシンプルなコマンド バトルになっています。これも最初に思い描いたコンセプトのとおり、一番わかりやすいシステムがコマンド選択式、かつターン制のバトルであるという考えのうえで作っています。JPRG が初めてでも、ゲームに慣れて、レベルさえあげてしまえば普通に先に進むことができます。もちろんやり込み要素もあり、敵と HP を削りあっていく中で属性や行動順の駆け引きが、設定された難易度が上がるほど突き詰めて作られているので、十分に歯ごたえのあるバトルがプレイヤーを待ち構えています。ぜひご期待いただければと。
村上氏: 一騎打ちも戦争も、村山と話したときに「あんまりゲーム ゲームしていない作り」にしたいっていう思いがありました。戦略を絡めることで難しくなるようなことはせず、どちらかというとイベントの延長線上でやっている感覚を体験してもらいたいと。それならば、いろいろ演出を入れなきゃいけないでしょう、ということでまたドット パターンが増えるはめになったんです(笑)。
小牟田氏: 映画的な見せ方を意識することを、村山さんは言っていましたよね。
村上氏: 一騎打ちは 1 対 1 なので、二人のキャラクターに焦点が狭まるじゃないですか。キャラクター同士が 2D のドット絵のまま一騎打ちに入っていくわけですが、戦いがどんどん展開するにつれて、プレイヤーが楽しくなるような演出を考えました。
戦争はどちらとも軍団制というか、戦場のリアリティ、いわば怒号を上げる兵士を大量に出すことを意識していますね。
小牟田氏: 戦争がテーマのゲームでもあるので、「大軍がバーッと出てきて、それが丘の上で整列する絵が見たい」っていう話があったんです。
村上氏: そういう場面はドット絵では対応が難しいので、3D で表現されていますね。
小牟田氏: 最初、すべてをドット絵で表現する、といった話もありましたよね (笑)。
村上氏: カメラ アングルをぐりぐりと動かしたい、という思いがあったんです。ドット絵一つ一つで表現するよりも、求めている全体の雰囲気を伝えることを優先しています。
小牟田氏: 戦争をテーマにしているゲームの話をしていたとき、ガチの RTS ゲームを見せられて……。いや、これは 2D では絶対無理ですっていう話になりまして (笑)。
村上氏: それぞれのバトルは物語のワンシーンとして、その場の空気を変えることを意識して作っているんで、前後の雰囲気の移り変わりを楽しんでいただければいいですね。
小牟田氏: バトルもそうですね。コマンド バトルではあるんですが、一斉にキャラクターが動くんです。そのときのカメラ ワークの連続性を村山が凄くこだわっていて。それぞれのキャラが行動して、その都度カメラがズームして戻って……という形ではなく、それぞれのキャラクターが流れるように動いているところを、さらに流れるようなカメラ ワークで映すことにすごくこだわっていたので、見ていて楽しいバトルになっているんじゃないかなと思いますよ。
本拠地や一騎打ち、戦争などは『幻想水滸伝』でも見られたシステムでした。このあたりは、企画当初から入れ込もうと思っていたものなのでしょうか。また、『百英雄伝』でも改めて採用した理由があれば教えてください。
また、現在のゲーム体験に寄り添う形で変化させた要素についても教えてください。
村上氏: これらの要素ですが、Kickstarter のストレッチ ゴールに戦争、一騎打ち、そして本拠街なども含めて全部入ってありました。
河野氏: 料理対決然り、ね。
村上氏: 支援をしていただいたバッカーは村山のゲーム ファンなので、そういった要素は求められていたみたいですね。いずれも支援さえ集まれば、予算と期間を取れば作れるので項目として入れていたんですが、全部達成しちゃったんで……。『百英雄伝』は Kickstarter でお約束した要素を全て入れることを目指さなければならない、という地点からのスタートになりました。
小牟田氏: 本拠街は、企画当初から今回は「街」を発展させたいっていう思いがありました。みんなが集まるようなお城ではなくて、自分たちで町を作るっていう、街作りのできる別のゲームを丸々一本入れるようなことを、気軽に言っていました。
村上氏: まったく気軽じゃないと思う (笑)。
小牟田氏: 「街づくり」と言った時点で気軽じゃなかったのは確かです。ただレベルが上がって街が大きくなる、くらいの自動で進行する要素だったら良かったんですけど、今回は自分で選んだ建物を建てたりとか、建設や維持のために必要な人を呼んできたり、といった要素がゲームとして入っているんです。ゲームの中に別のゲームをもう一本作っている、と周りには言われました (笑)。
村上氏: あそこのフェーズに入ってくると、『百英雄伝』はどんどん面白くなってきます。最初のうちは本拠街もないですからね。本拠街に入れるまでは、いわゆる JRPG 的な体験をお楽しみいただくことになります。
クラウド ファンディングを通して受けた支援者からのフィードバックが『百英雄伝』という形で実を結んでいると。
河野氏: まぁ、ほぼほぼそうです。
村上氏: そうですよね。自分だけ『幻想水滸伝』を作ってきた人間じゃないんです。どちらかというと、『悪魔城ドラキュラ』に携わってきたわけで、だから逆にニュートラルで居られましたね。『幻想水滸伝』や村山のファンのご意見も、あえて自分からは見に行かない、聞きに行かないようにしていました。そうしたことで、今までと違う要素、ニュアンスで表現が出来ている部分もあると思います。
本作は日本で作られている作品です。Kickstarter を使ったクラウド ファンディングなど、最初から海外展開を意識していたと思いますが、海外ユーザーからの反応はどのようなものが多かったでしょうか。また、とくに反響が大きかった地域等はありましたか。
村上氏: 元々『百英雄伝』は、海外に村山のファンが結構いるってところからスタートしています。Kickstarter やクラウド ファンディング自体、日本ではあまり馴染みがないですからね。だから最初は日本はクラウド ファンディングの活動に組み込んでいなかったんです。いざクラウド ファンディングが始まって、「いや、絶対日本にも村山のファンはいるだろう」と考えたことで、海外から国内という順番でのアプローチになりました。ただ、ゲームそのものは日本人が日本の感性で作るんで、JRPG らしい仕上がりになるわけで、別に海外を意識したというよりは、日本らしいもの作ろうと取り組んできました。
河野氏: 海外の人の反応でいうと、「村山が好きなゲームを作る」というところに支援が集まったわけですが、世界中にファンの方は結構いるだろうと見込んでのことでした。実際のところやってみたら、一番多かったのはアメリカの方で、二番目が日本でした。そのほかにもフランスとアジア地域からはもちろん、ブラジルからも含めて、本当に世界中から支援をいただいています。どこそこに向けて特別な何かをすることは特になかったですが、日本のファンの方と違って、アメリカの方からは、難易度が高いモードが欲しいとか、ちょっとマニアックなリクエストをいただいています。
『百英雄伝』は発売初日から Game Pass で配信となります。この Game Pass というサブスクについて、どのような印象をお持ちでしょうか。
村上氏: 最初 Game Pass で配信を行う、という話が出てきたときには、まだ選択肢として考えてなかったのでどうしようかと考えましたね。それでよくよく考えたら、『百英雄伝』は一作目で儲けるというよりは、認知を広める方を優先すべきだと。その方針を検討すると、まずコアなファンの皆さんはもうこちらに目を向けてくれているんです。
『百英雄伝』は支援してくださったバッカーの皆さんが一番大事だし、彼らの求めてくれている作品を制作していくんですが、それだけではシリーズとしては続かないだろうなと思ったんです。そう考えたとき、プロデューサーとして何をすべきか。それは『百英雄伝』をプレイできる場を増やして、裾野を広げることでした。こうしたジャンルを遊んだことがない人にも本作を手に取ってもらい、見てもらえる機会を増やすのに (Game Passは) 最適だなと。そうした検討を経て、やるべきじゃないかという話になりました。
河野氏: まずは、たくさんの方に『百英雄伝』をふれてもらいたいという思いがあります。
村上氏: サブスクは初めての体験が多く詰まっているのがいいですよね。映画でも何でも、ああいったサービスだから見る機会が訪れた作品があって、そこからシリーズや監督が好きになっていくこともありますから。今は最初からこういうゲームが好きな人にしか買ってもらえないので、そういう意味でもああいう場が一つあって良かったなと。潜在的なファンに手に取ってもらえることを期待しています。
『百英雄伝』の開発における思い出深いエピソードを教えていただけますでしょうか。
村上氏: 思い出深い、だらけですよ (笑)。今までにない、という意味では開発中にコロナ渦に突入したことが一つですね。開発当初から顔を知らない、対面で会ったことがない人とチームを組み、ゲームを作らなきゃいけない……という特殊な環境で開発を進めてきたのが、今ではすごく思い出深いです。
小牟田氏: チーム内の半分ぐらいの人は対面で会ったことがないですね。
河野氏: 全部オンラインだったり、ほぼ家でやっていたりしましたもんね。
村上氏: まあ、もちろんモニター上で顔は見ていたのですが、直接会ったことがない人は多いですね。そうしたエピソードはいっぱいあります。あとはやっぱり、村山と Kickstarter を立ち上げたときが一番でしょうね。
河野氏: あのときは、ちょっと熱に浮かされたみたいに盛り上がっちゃいました。
小牟田氏: Kickstarter の支援を受けはじめてから、一瞬で目標額を達成してしまったんです。Kickstarter のページ上で、金額がぐんぐんと上がっていくんです、リアルタイムで。あの瞬間はみんな、少しおかしくなっていましたね。
村上氏: あれが宝くじかなんかだったら、単純にうれしいんでしょうけど、クラウド ファンディングの場合はあんまり上がっていくと、今度は不安になってくるんですよ。
河野氏: 責任感みたいなものが…… (笑)。
小牟田氏: え、こんなに集まっちゃていいの? みたいな (笑)。
村上氏: 期待がどんどん乗っかってくる感じが、新しい感じがしましたね。
小牟田氏: 何だかすごいものを背負ってしまった感じがありました。
河野氏: ありがとう、と思いながらも重たい約束が肩に乗っていく感覚です。
村上氏: 絶対にこれは逃げられんぞというぐらいの感覚ですね (笑)。
小牟田氏: でも何より嬉しかったんですよ。いろいろな気持ちが複雑に渦巻いていましたが。今でも、あのときの村山の言葉が忘れられないくらいには。「なんだか手の震えが止まんないんだけど」みたいなことを言っていましたね。
河野氏: 最初からそんな感じで、最後まで特殊なゲーム制作でした。
村上氏: そうですね。時間かけて考えればいっぱい思い出が出てくると思うんですけど、一言ではなかなか語れないですね。
JRPG というジャンルに初めて触れる Xbox プレイヤーに向けて、メッセージをお願いします。
河野氏: 私たちはいろいろ遊んでもらえる場を作ったつもりです。どう遊ぶのも自由になれる、どこをつまんでも楽しくなれるゲームを作ったつもりなので、ぜひ楽しんでいただけると嬉しいですね。
小牟田氏: 普通にプレイしていると、「ああ、普通に JRPG だな」って言う感覚になると思うんですけど、ぜひ寄り道したりとか脇に逸れたり、ちょっと仲間を集めてみて別のパーティーに変えてみるなど、バリエーション楽しんでいただければ『百英雄伝』の面白さが伝わるんじゃないかなと思います。
村上氏: JRPG 初体験となる人ってなかなかどういう人なのかイメージが難しいですね。ただ一つ確かなのは、JRPG 初体験の人は全てが新しく見えると思う、ということです。多分、今まで遊んだことのないゲーム、旅したことのないタイプの世界観、感覚が『百英雄伝』で楽しめる思います。音声は全キャラクターにそれぞれ違う声優さんを起用しています。キャラクター全員が動きやエフェクトを細かく変えられていたり、それぞれにシナリオが用意されていたりもします。総合して、何も考えずに楽しめてしまうと思いますね。難しいことは一つもないので、そういう意味であの新しい人は気軽に試してくれたら嬉しいです。
『百英雄伝』は本日より Xbox Series X|S、Xbox One、Windows PC、ならびに Game Pass にてお楽しみいただけます。