『Senua’s Saga: Hellblade II』はヘッドフォン必須! 今までに聴いたことがないバイノーラル オーディオを体験しよう
2017 年発売の『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、極めて特別なゲームでした。Ninja Theory にとって果敢な挑戦ともいえる、精神病にまつわる短めのナラティブな体験を作り上げるという決断は、勇気ある一歩でありながらも報われる結果となりました。それから 7 年が経った今、同スタジオはセヌアの物語の続編を発表する準備を進めています。その作品は、同様に思い入れやこだわりを込めて作られたものでありながら、考え得るあらゆる方法で前作を発展させたものとなっています。
発売までの間、『Senua’s Saga: Hellblade II』のスタジオ内部からの制作秘話や、『Hellblade』シリーズのクリエイティブ・リードからの言葉をお届けします。業界をリードする才能、画期的なテクノロジー、そして「真の没入感の追求」という究極の目標を実現するために、前例のないようなユニークなアプローチでゲーム開発に取り組んだ、Ninja Theory の究極の形がここにあります。
『Hellblade: Senua’s Sacrifice』をプレイしたことがある人なら、その素晴らしいオーディオ デザインは十二分にご存知でしょう。特に、ゲームを通してセヌアの頭の中で繰り広げられる印象的で絶え間ないモノローグ、それによって独特な方法であなたの頭の中にも入り込んでくる声 (フューリー: ゲーム中、セヌアが聞くことになる声)、という点が大きな特徴です。Ninja Theory は、『Senua’s Saga: Hellblade II』においてもまるでその場にいるような感覚になるオーディオ体験の実現に全力を注いでいます。前作では単にセヌアの内なる対話のためにオーディオ技術が使われていましたが、この続編ではサウンド体験生み出すトリックがゲームを進めるにあたって不可欠な要素となっているのです。
Xbox Wire 編集部は、本作のオーディオ ディレクターであるダビド ガルシア (David Garcia) のスタジオにお邪魔し、チームがどのようにバイノーラル オーディオを導入したのか、なぜバイノーラル オーディオが本作に必要なのか、そしてセヌアの旅という物語の核心部分にバイノーラル オーディオを取り入れたプロセスについて、詳しくお聞きしました。
バイノーラル オーディオとは、2 つのマイクを使って音を録音する方法で、あたかも自分の耳で聞いたような 3D サウンドスケープを作り出すように設計されています。バイノーラル オーディオ自体は決して新しい手法ではありませんが、「Hellblade」シリーズにおける実装はユニークであり、ゲーム デザインに不可欠な要素となっています。本作で体験するのは精神病の極めてリアルな再現であり、ガルシアはほぼ 10 年に渡るリサーチ、忍耐、そして研鑽によって、この境地を切り拓きました。
テクノロジーの飛躍
ガルシア氏は『Hellblade』シリーズの進化の主な柱を、テクノロジーと精神面の 2 つに分けています。テクノロジーの向上がもっとも顕著なのは、サウンドスケープのキャプチャに使用されるリソースと機材の大幅なアップグレードです。ガルシア氏のオフィスには、シンセサイザー マニアでもある私を驚かせるような、印象的なツールの数々が揃っていました。
1 作目ではガルシア氏が一人で作業していたのに対し、『Hellblade II』のオーディオ デザインには現在 7 人のチームが携わっています。彼は 1 作目のときのことを語りました。「膨大なプロジェクトでありながら細部までこだわっていたために、すべてを自分でこなすことはできませんでした。足音や効果音が聞こえない場所がたくさんありましたが、それよりも重要と思われる部分に集中したのです」
『Senua’s Saga: Hellblade II』でゲームの中を移動していると、小さな音までしっかり作り込んでいることを実感できます。セヌアと共に廃村を抜けるシーンでは、村の過去の出来事の残響が聞こえてきました。苦悶に満ちた母親の泣き声と、近くの死骸近くを飛び回るハエの不快な音が絡み合って聞こえてきます。あまりにも不規則かつ不穏な音なので、何度かヘッドフォンを壊したくなりました。穏やかで開けた海岸では、セヌアの足が石を慎重に踏みしめる音、遠くから雷のような波の音、周囲を吹き抜ける風の音が聞こえてきます。
重要なのは、ヘッドフォンをしているとこれらの音がどこから聞こえてくるのかがわかることです。ただ効果音がたくさん押し寄せてくるのではなく、その音があるべき場所から正確に聞こえてくるのです。ガルシアと彼のチームは、現実世界と同じように『Hellblade II』の中で音がどのように動いてどのように反響するのかを十分に研究、検討し、より深い没入感を生み出しています。
ガルシアは「音響は非常に重要な役割を果たします」と付け加えます。「例えば、岩があるところで叫べば、叫び声は岩から跳ね返ります。洞窟の中で司祭が唱え言をしていたら、その音がこちらに向かって聞こえてくるようになっていますし、何かが離れていく場合はその逆になります。すべての音は、雰囲気や緊張感を作り出すために機能しており、本作の技術でそれを実現しているのです」
セヌアの成長
ガルシアが語ってくれたもうひとつの側面は、セヌア自身の精神的な成熟であり、それがどのように世界や頭の中で聞こえる音を形作っているか、という点です。彼女はより強くなり、精神の揺らぎと調和が取れるようになりました。症状が治ったわけではありませんが、何が起こるかをより深く理解できるようになり、その結果として頭の中の声との会話のやりとりの幅が広がりました。
セヌアの状態は、再びフューリー (ゲーム中、彼女が聞くことになる声) によって表現されています。本作での声は相変わらず圧倒されるように感じられますが、セヌアと行動を共にしていくうちに、その声に対して奇妙な安心感を覚えるようになってきます。
「1 作目のトーンは非常に暗い色調でしたが、本作はより多彩な表現になりました」とガルシアは言います。「セヌアには (フューリーたちを) 新たな形で感じとることができ、1 作目にはなかった、深く、意味のある会話ができるようになりました。これはとても美しいことだと思います」
これは、セヌアが旅先で何人かの新しい登場人物と会話を交わす様子を通じて描かれています。会話の中で聞こえてくる幻聴が、葛藤しながらセヌアの反応について議論し、潜在的な反応や正当性を猛烈な速度で検討してきます。しかし、セヌアはもはやこの不協和音に囚われることはなく、その瞬間にどう行動すべきかを自分で決めることができるのです。この人は私の助けを必要としているのだろうか? それとも私を傷つけようとしているだろうか? プレイヤーが音の洪水の中で答えを見つけるように、セヌアもまた、音のスタイル、強さ、配置を通して、彼女の感情や思考を表現します。まるで映画の音楽のように、音は彼女の心の奥底に潜む想いを鮮やかに描き出します。
ガルシアは続けます。「私たちは抽象的な概念を音で表現しています。罪悪感とはどのような音であり、セヌアにとって罪悪感とはどのようなものなのでしょうか。悲しみ、陶酔感、怒りなどをどのように解釈するべきでしょうか」
「私たちは単に音を再現しているのではなく、キャラクターの「リアル」を創り出しています。音と音楽と声を通して、セヌアの感情を解釈し、1 つの瞬間を創り出しているのです」
「私たちは単に音を再現しているのではなく、キャラクターの「リアル」を創り出しています」
David Garcia (ダビド ガルシア)
3 人寄れば
1 作目ではセヌアが精神病の幻覚と共に孤独な旅をする物語でしたが、本作ではセヌアが初めて世界で新たな登場人物と出会います。セヌアは見知らぬ人物たちと対話し、頭の中の声に対処しながら、人間関係を築くという試練に直面することになるでしょう。
本作のあるシーンで、セヌアはバイキングの奴隷商人に捕らわれている、見知らぬ男と出会います。このとき、セヌアは彼と直接会話をしていますが、頭の中で聞こえてくる声たちは両者が口に出して言っていることと矛盾しています。
ガルシアはこう続けて言いました。「3 人の間で会話が交わされたとき、どのような会話になるでしょう。また、その会話は周囲の人にどう聞こえるのでしょう」
ガルシアのスタジオにいる間、私はフューリーたちの演技の一部を見せてもらいました。パフォーマーのアビ グリーンランド (Abbi Greenland) 氏とヘレン ゴールラン (Helen Goalan) 氏が、セヌアが洞窟の中を移動する様子を描いた台本なしのパフォーマンスに参加しています。ヘッドフォンからは、周囲の様子や考えがシームレスに溶け込むような、心霊的なナレーションが聞こえてきました。しかし私が目にしたのは、まるで獲物をつつくハゲタカのように、2 人の俳優がノイマン マイクロフォンの両側を旋回している姿でした。声が頭の中を通り抜けていくように感じるのです。明るく照らされた部屋にいても、30 秒ほどの体験でしたが、とても不快な気持ちになりました。予測不可能なささやきや笑い声が、私の脳を刺激してくるのです。ガルシア氏は、この体験をジャズに例えています。雰囲気があり、感動的で、その最高の部分のいくつかは事前に決められた台本ではなく、即興から生み出されるものだ、と。
「音楽には、クレッシェンド、ディミヌエンド、フォルティッシモ、ピアニッシモがあります。私はゲームの中において、声も同じように表現したいと思っています」とガルシアは語ります。「あるときは声が大きくなり、時には静かになるので、常に疲れたり圧倒されたりする感じがしません」
また、常に声の存在を感じられるよう、十分なダイナミクス (クレッシェンドなどの音の強弱) を備えたオーディオ デザインになっています。ときどき声の存在感が強くなりすぎて、ある一線を越えてしまうこともありますが、それも重要だ要素だと考えています。なぜなら、セヌアは内なる声であるフューリーを消すことができないからです。
『Hellblade』シリーズにおいて、オーディオの重要性はいくら強調してもしすぎることはありません。セヌアの旅が非常にユニークで感情移入しやすいのは、オーディオ デザインのおかげなのです。ガルシアはこのことを理解していますが、オーディオ ディレクターとしての自分の役割は、Ninja Theory が目指す没入感のための大きな歯車の 1 つに過ぎないことも認識しています。
「すべてが 1 つにまとまる必要があり、そのすべてを見てほしいと思っています」とガルシアは言います。「皆さんに新しいセヌアを発見してもらいたいし、彼女の世界に再び没入してほしいと思っています。これこそ私たちが目指しているものであり、唯一無二の体験で壮大な旅なのです。ユニークな体験、そして計り知れない旅となるでしょう」
『Senua’s Saga: Hellblade II』は、Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Xbox Cloud Gaming (Beta) 向けに 2024 年 5 月 21 日に発売され、Xbox Game Pass と PC Game Pass ではゲーム発売初日からプレイすることができます。
※この記事は米国時間 5 月 17 日 に公開された“Headphones Required – Senua’s Saga: Hellblade II’s Binaural Audio Is Like Nothing You’ve Ever Heard”を基にしています。