『Senua’s Saga: Hellblade II』: パフォーマンス キャプチャとスタントによる新次元戦闘の構築
2017 年発売の『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、極めて特別なゲームでした。Ninja Theory にとって果敢な挑戦ともいえる、精神病にまつわる短めのナラティブな体験を作り上げるという決断は、勇気ある一歩でありながらも報われる結果となりました。それから 7 年が経った今、同スタジオはセヌアの物語の続編を発表する準備を進めています。その作品は、同様に思い入れやこだわりを込めて作られたものでありながら、考え得るあらゆる方法で前作を発展させたものとなっています。
発売までの間、『Senua’s Saga: Hellblade II』のスタジオ内部からの制作秘話や、『Hellblade』シリーズのクリエイティブ リードたちからの言葉をお届けします。業界をリードする才能、画期的なテクノロジー、そして「真の没入感の追求」という究極の目標を実現するために、前例のないようなユニークなアプローチでゲーム開発に取り組んだ、Ninja Theory の究極の形がここにあります。
長い間、モーション キャプチャは Ninja Theory の伝統の一部となっていますが、それには理由があります。同スタジオは、2007 年発売の『Heavenly Sword (ヘブンリーソード)』でゲーム用パフォーマンス キャプチャのパイオニアとしての地位を確立し、以降も革新を続けてきました。現在では、Ninja Theory はケンブリッジ本社の敷地内にある独自のパフォーマンス キャプチャ スタジオをはじめ、最先端のテクノロジーをより利用しやすくなっており、『Senua’s Saga: Hellblade II』で再び自身の壁を打ち破ろうとしています。
Ninja Theory は、1 作目の『Hellblade』では映画のようなシーンでパフォーマンス キャプチャを利用していましたが、『Senua’s Saga: Hellblade II』では、ゲーム内で最大限にリアルな人間らしい体験を実現するため、ほぼすべてのゲーム内の動きを実際に俳優が演じてスキャンしています。スタジオ責任者のドム マシューズ (Dom Matthews) によると、戦闘シーンのキャプチャだけでも、ほぼ丸 70 日を要したとのことです。
「パフォーマンス キャプチャは、キャラクターの動きを最大限、純粋な形で表現するためのツールだと考えています」とマシューズは話します。「没入感を作り出し、維持するためにできることはすべてやるという私たちの目標につながるため、この機会を利用しました」
『Senua’s Saga: Hellblade II』での戦闘へのユニークな取り組みほど、それを感じられるものはないでしょう。それは Ninja Theory のやり方に対する深い信念の証であると同時に、つねにクリエイティブであろうとする同スタジオのまったく新しい試みでもありました。
進化した戦闘
『Senua’s Saga: Hellblade II』の戦闘は前作から大幅に改善されていますが、ユニークな点はこれまでのようなアクション ゲームにはなっていないことです。本作では、際限なく相手を叩きつけたり、斬りつけたりすることはありません。セヌアとして体験するすべての戦いは計算され、意図されたものであり、あらゆるスイングやパンチ、つかみ組み合いが、彼女の苦闘とそれを克服した際の成長に沿って作られています。毎回、すべての敵があなたとセヌアを仕留め得る相手のように感じられ、死地から無傷で立ち去れることがこの上ない勝利のように感じられるのです。
「過去に作ったものにそのまま足すのではなく、私たちが本当に大切にしていること、つまり戦闘を物語にとって意味あるものにするために、どうすればより深く掘り下げられるか考えました」とマシューズは言います。
Ninja Theory を訪問した際、私 (筆者) は戦闘に関する進化を、様々な角度から見せてもらいました。それは、俳優による戦闘シーンの演技やキャプチャの様子から、Unreal Engine 5 での開発段階におけるそれらの動きの舞台裏、そして考え抜かれた仕事の産物である、完成したゲームプレイそのもの……と、スタートから完成までひととおりです。
物語の一幕では、セヌアが仮面を付けた敵たちの猛攻に立ち向かう場面でクライマックスに突入します。彼女を殴り倒そうとする重装備の敵もいれば、タイミングよく避ける必要がある、素早い火炎攻撃を仕掛けてくる敵もいます。どの戦闘も 1 対 1 で行われますが、隙あらば画面外から新たな敵が押し寄せてくるため、まったく気は抜けません。ギリギリのところで生き残っているという極限状態の中、セヌアは敵への報復を繰り出します。敵を倒す動きは心臓のようにとてもリズミカルで、その決死の鼓動だけがゲームを突き動かします。
自分でプレイしてみないと説明しづらいのですが、これは従来のビデオ ゲームの戦闘のようには感じられません。セヌアにも敵にも重みがあり、超人的な殴り合いというよりもどちらかが倒れるまで続くダンス、といった感じでしょうか。これにより、普通の敵であっても、激しいボス ラッシュのような疲労感や爽快感のある展開が実現しています。
「1 対 1 の戦闘に残忍さや苦闘感を持たせたかったのです」と、『Senua’s Saga: Hellblade II』の戦闘ディレクターであるブノワ メーコン (Benoit Macon) は話します。「そうした面でも、戦闘と物語に繋がりが生まれているのです」
現実世界で、スタント パフォーマーによって実際に戦闘が行われているところを見ると、戦いの中で向けられている残忍さはさらに痛感できました。Lucky13 に所属するふたりのスタント パフォーマーが、ひとりはセヌア役、もうひとりは大柄なノースマン役として、複数の戦闘シークエンスを演じるところを見たのです。ふたりのパフォーマーは互いに激しく武器を振るい合い、あるテイクでは激しいボディスラムで決着を迎えました。その動きや身のこなしは、巧みに演出されているとはいえ予測不可能で、テイクごとに微妙に異なり、完全に計算されたデジタルでのキャラクター リギングでは得難いリアルさを生み出しています。
このシーンは非常に映画的でもありました。画面上では、仮面を付けたヴァイキングの奴隷商人と解放されたばかりの捕虜の間で乱闘がくり広げられており、セヌアが次に誰と戦うことになるのか分かりません (実際、もし死んでしまった場合は違う順番で敵と戦うことになり、戦闘がワンパターンになるのを防いでいます)。メーコン氏は、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の有名な「バトル・オブ・ザ・バスターズ」のエピソードを、このシークエンスの初期に参考にしたものとして挙げます。ジョン スノウが、絶え間ない敵との負け戦とも思われる戦いの中で直面する、容赦のない無差別の暴力です。同じように、セヌアはこの章で英雄になろうとしているのではなく、ただ生き残るために戦っています。そして、プレイヤーの皆さんは彼女とともにそこにいるのです。
セヌアに命を吹き込む
逆説的ですが、『Senua’s Saga: Hellblade II』をプレイしていると、戦闘に関する Ninja Theory の天才的な仕事の一部を、通常の場面から戦闘へ遷移する際へのこだわりからも気が付くでしょう。セヌアの剣が鞘に収まっているときでさえ、探索や謎解き、他のキャラクターとの会話の時間が、ダイナミックな、リアリズムの深い感覚に根ざしています。そして重要なのは、それによってゲーム全体がひとつながりのように感じられるということです。何もない闘技場に入って「あ、これは戦闘シーンだ」と気付くことはありません。ひとつながりとは、静かな時間でさえ、いつ戦闘に突入してもおかしくないように感じさせてくれているということです。
セヌアの何気ない動きも、非常にリアルに感じられます。彼女が廃村の中を注意深く歩いたり、恐ろしい敵の周りを恐る恐る通り抜けたりしているとき、私はしばしば彼女と同じ反応をしていることに気付きました。セヌアの肩が緊張していれば、私も同じように身構えています。セヌアが見つからないように身を小さくしていれば、私も仮面をかぶった悪夢から画面越しに見られるのではないかと、身を縮こまらせているのです。これらはすべて、セヌア役の女優メリーナ ユルゲンス (Melina Juergens) 氏による、今や彼女の延長線上に存在する、生きて呼吸するキャラクターを作り上げるための弛まぬ努力の賜物でしょう。
「ユルゲンス氏のような俳優や他のキャストと仕事をする利点は、彼らを招いてさまざまなアイデアを試してもらえることです」とマシューズは言います。「たとえば、恐る恐る歩く動きです。その瞬間にあなたが何を感じるか、それをどうやってプレイヤーに伝えるかを考えるのです。そうすることでその動きをキャプチャでき、最終的にゲームが実際の動きに基づいたものになります」
ユルゲンス氏は、天候のような条件にも影響されると話します。大雨や強風の場合、セヌアはどのように動き、振る舞うのか? セヌアと他のキャラクターの会話は、同じ内容でも複数のバージョンが用意されているシーンもあり、セヌアが歩いているのか走っているのかによってセリフが変化します。NPC だけでなく、ダイナミックに変化する世界にも絶えず反応があるゆえに、彼女の世界にどっぷり没入できるわけです。
よじ登りや宙づりのシーンをシミュレートするため、撮影工程を通してずっと足場を使うため、Ninja Theory のチームには、安全な足場の組み方のトレーニングを受けているスタッフもいます。制作に対する、並々ならぬコミットメントです。
場合によっては、よりリアルでアニメーション的なアプローチを行うために、ユルゲンス氏が先に身体の動きを撮影し、後から表情を記録することもあります。また別のシナリオでは、彼女がシーンを演じながら、動きと表情を同時に撮影することもあります。ユルゲンス氏は、頭に装着した iPhone のカメラで表情をキャプチャしながら、恐る恐る足場を渡った例を話してくれましたが、後日ゲームで話に出たシーンをプレイした際、私はそのことが頭から離れませんでした。
結果として本作では、一般的なアクション ゲームとはかなり調子が異なる印象を受けます。セヌアを次から次へと戦いに駆り立てることはしませんし、戦闘が大きな物語を中断させるものであるようにも感じません。戦闘はセヌアの旅の一部であり、その中でも外でも、彼女を実在する人間のように感じさせるために費やされた膨大な作業により、プレイヤーは至福の不安状態の中に取り残されることになります。いつ次の戦いが起こるかは、誰にも分かりません。
目的ある戦い
スタント ワーク、綿密な演技のキャプチャ、戦闘を “表現” するための新しいメカニクスのアイデアなど、これらの仕事はすべて、従来のゲーム開発と同じくらいハリウッドのプロダクションのようにも感じられます。Ninja Theory は長大な AAA クラスの超大作への憧れを抱いており、ハリウッドの手法にますます迫っています。しかし、マシューズは『Senua’s Saga: Hellblade II』を良質なインディペンデント映画にたとえることを好み、『Hellblade: Senua’s Sacrifice』の成功と反響によって、心を込めた作品を作り続ける自信がさらに強まったと語ります。戦闘に関して言えば、プレイしていて気持ち良いだけでなく、より大きなメッセージを届けるためのシステムを作るということです。セヌアは何も考えずに戦闘に参加するのではなく、目的を達成するために戦うのであり、それは Ninja Theory がキャラクターを画面上に登場させるあらゆる面で取り組んできたことでもあります。
「この考え方によって、私やチームのメンバーは創造的な仕事に勇敢であり続け、私たち全員が個人的なこだわりを粘り強く追求することができたのです」とマシューズ氏は語ります。
『Senua’s Saga: Hellblade II』の戦闘は、ゲームのための機械の歯車というより、Ninja Theory が提示する幅広い芸術作品の筆さばきのようなものとなっています。そのスタジオの原動力となっているのは、セヌアの旅路を、心のこもった独自のこだわりで革新し続けようという恐れを知らない姿勢です。それ自体が、ひとつの成果なのかもしれません。
『Senua’s Saga: Hellblade II』は、Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Xbox Cloud Gaming (Beta) 向けに 2024 年 5 月 21 日に発売され、Xbox Game Pass と PC Game Pass ではゲーム発売初日からプレイすることができます。
※この記事は米国時間 5 月 16日 に公開された“Senua’s Saga: Hellblade II – How Performance Capture and Stunts Created Next-Level Combat”を基にしています。