主人公セヌアを、ゲーム史上最も人間味のあるキャラクターにするために Ninja Theory が取り組んだこと
2017 年発売の『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、極めて特別なゲームでした。Ninja Theory にとって果敢な挑戦ともいえる、精神病にまつわる短めのナラティブな体験を作り上げるという決断は、勇気ある一歩でありながらも報われる結果となりました。それから 7 年が経った今、同スタジオはセヌアの物語の続編を発表する準備を進めています。その作品は、同様に思い入れやこだわりを込めて作られたものでありながら、考え得るあらゆる方法で前作を発展させたものとなっています。
発売までの間、『Senua’s Saga: Hellblade II』のスタジオ内部からの制作秘話や、『Hellblade』シリーズのクリエイティブ リードたちからの言葉をお届けします。業界をリードする才能、画期的なテクノロジー、そして「真の没入感の追求」という究極の目標を実現するために、前例のないようなユニークなアプローチでゲーム開発に取り組んだ、Ninja Theory の究極の形がここにあります。
これまでのストーリーをおさらいしたい人のために、Ninja Theory は振り返り映像を用意しました。これは、初代『Hellblade: Senua’s Sacrifice』での出来事、セヌアのこれまでの旅路、そして『Hellblade II』という次のステップを体験するにあたって、彼女の状況を思い出せるように構成されています。
『Senua’s Saga: Hellblade II』の特に緊迫したカットシーンで、セヌアが重大な決断を下す場面があります。バイキングの奴隷商人との血みどろの戦いに勝利した後、彼女は新しいキャラクターを恐ろしい運命から救うかどうか選択を迫られます。Ninja Theory の驚くべきパフォーマンス キャプチャと Unreal Engine 5 のビジュアルにより、セヌアの顔に浮かぶあらゆる感情──懸念、心配、不信──が忠実に表現され、困っている人を救うべきか、熟考する彼女の姿を描きます。
1 作目において、おそらくセヌアはこのような内面での葛藤を経験しなかったでしょう。しかし、2 作目にあたる本作で彼女は取捨選択を、そして感情の処理をこれまでとは違う方法で行っています。それもそのはず、セヌアは一夜にしてここへ辿り着いたわけではありません。彼女はこれまでも、そして『Senua’s Saga: Hellblade II』においても、信じられないほど成長を遂げており、今後もそれを続けていくでしょう。ゲームにおいて「成長」は、多くの場合、メカニックやステータスの上昇といった、目に見える形で表現されます。しかし「Hellblade」シリーズは、成長をキャラクターの本質的な体験として描き出します。それが、Ninja Theory の作品が際立っている理由の 1 つなのだと思います。
前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』のエンディングでは、セヌアが恋人ディリオンを失った悲しみを受け入れ、肉体的にも精神的にも自身が乗り越えてきた厳しい旅を噛み締めます。続編にあたる『Senua’s Saga: Hellblade II』では、そうした彼女の成長が引き継がれた状態で始まります。経験によって鍛えられ、自分の精神病に慣れ親しみ、受け入れ、そのうえでより広くで利他的な目標を与えられています。セヌアの人格が形成されていく過程で、新しい人と出会うことでより外向的になっていく彼女の存在は、とてもリアルに感じられることでしょう。
ステージ ディレクター兼ライターの Lara Derham (ララ ダーハム) は、「1 作目のときは、彼女の旅の目的は非常に内向きなものでした。ディリオンに対する罪悪感は、彼女を個人的な使命へと突き動かしました」と述べています。「その衝動は、今も彼女の内に存在しますが、今や彼女は自身の殻を破り、より広い世界に目を向けています。個人的な愛や苦労といった障壁を超えて、周囲に危害が及ぶことを防ぐことに重点を置くようになったのです」
セヌアというキャラクターの進化は、彼女自身へのより深い理解、そして彼女の経験が自身の責任ではなかったということも示唆しています。「Hellblade」シリーズのメンタル ヘルス コンサルタントを務めた Paul Fletcher (ポール フレッチャー) 教授は、2 つのゲーム間のトーンの変化をこう説明しています。「1 作目のセヌアは完全な暗闇に包まれていましたが、本作の彼女はその中から抜け出し、新たな意味を見出していると思います」
セヌアは個人的な愛や苦労といった障壁を超えて、周囲に危害が及ぶことを防ぐことに重点を置くようになったのです
Lara Derham (ララ ダーハム)
彼女は依然として、フューリー (彼女の頭の中で競い合う声) によって精神的な負担に直面しています。しかし、セヌアはフューリーとともに成長し、彼女が新しいキャラクターと出会うにつれて、フューリーも反応すべき外部要因をより多く持つようになりました。フューリーの声色は一定ではなく、セヌアの精神状態に反応して変化します。不安や恐怖を感じているときは少し乱雑で威圧的になり、穏やかなときには静かになります。こうした変化は、プレイヤーにとって時折安堵感をもたらす一方で、セヌアがどのようにして自分の状態をコントロールしているのかという成長も知ることができます。
Fletcher 氏によると、これは、統合失調症を持つ人たちの臨床症状とも一致しているそうです。声は個人にとってのその意味が変化するのだといいます。
「興味深いのは、頭の中の声が他人の行動に言及するようになった点です。これは前作には見られなかった要素ですね」と Fletcher 氏は述べています。「つまり、頭の中の声が他人を信用しないよう仕向けたりするかもしれません。精神病の真っ只中にいる人が直面する二重の現実を、うまく表現していると思います」
Derham 氏曰く、ほとんどの人は誰かに話しかけられていると内面で何らかのモノローグが流れているといいますが、それらは実際に聞こえてくるものではありません。「誰かに話しかけられるたびに、相手が話していることについて絶えずコメントが入り、場合によってはその意味について議論をしているようなものだと想像してみてください。セヌアが新しいキャラクターに会うたびに、頭の中の声はそのキャラクターに反応するのです」
Fletcher 氏は、研究者の視点から見て、これは総合失調症の理解における大きな進歩となりうることを強調しています。精神病と診断された人が体験していることに焦点を当て、それらが単なる神経系のノイズではなく、私たち全員が現実を構築するのと同じプロセスで構築されていると認識することが肝要です。
「『Senua’s Saga: Hellblade II』で興味深いのは、人が 2 つの現実の階層を同時に認識することに対して関心が高まっているということです」と、Fletcher 氏は続けます。「セヌアは幻覚や声に悩まされながらも、同時に他人の構築する物語にも共感し、そこに加わることができるようになったのです」
前述した、見知らぬ人物を助けるという彼女の選択からも、セヌアが他者の物語に関与しようとする姿勢は、彼女が過去の経験から作り上げた殻を破り、新たな一歩を踏み出していることを示しています。
セヌアは幻覚や声に悩まされながらも、同時に他人の構築する物語にも共感し、そこに加わることができるようになったのです
Paul Fletcher (ポール フレッチャー) 教授
「セヌアの精神病は、他者との関係に影響を与えるものです。それは彼女が疲れ果て、世間から遠ざかってしまうほどのものでした」と Derham 氏は述べています。「私たちは今、彼女が人と出会うことによってそれ (症状) を克服し始め、彼女の視点も他者と同じように価値があるということを表現しています」
「一部の出会う人々は彼女に対して冷酷さで返したり、恐怖を感じたりするでしょうが、違った見方をする人もいます。彼女はそうした人たちと共通点を見つけ、ポジティブな体験を共有していきます。セヌアがこうした人間関係やキャラクターとの交流を深め、彼女がどのように他人を助けられるのかを見届けるのはとても興味深い体験です」
前作である『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、現代メディアにおける精神病の最もリアルな描写の 1 つ、あるいは唯一のものと評価されています。しかし、Derham 氏と Fletcher 氏は共に「精神病は時間とともに変化していくため、完全な描写は難しい」と、精神病を完全に表現することは不可能かもしれないとも指摘しています。
『Senua’s Saga: Hellblade II』における体験で、特に印象に残ったセリフがあります。セヌアが静かに、しかし断固とした口調で「これは牢獄ではなく、約束だ」と言い切るシーンです。この瞬間、セヌアは過去を受け入れ、自信を持って新たな目標に向かって歩み出す準備をしているのがわかります。それは自分だけでなく、周りの人々のためでもあります。このセリフこそ、彼女がキャラクターとしての成長、そして過酷な世界で持病と闘う女性としての強さを最も感じた部分でした。
Derham 氏は、「セヌアがまだ旅の途中にあることを示すことは重要でした」と付け加えます。「1 作目で彼女が見せた勇気と忍耐力は本作でも健在ですが、より自発的なものになっています。彼女は依然として自分に影響を与えようとする声を頭の中で聞くでしょうが、それに応じるかどうかは自分で選ぶことができます。1 作目にはなかった主導権が彼女にあり、その進化こそが本当に鍵となるのです」
『Senua’s Saga: Hellblade II』は、Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Xbox Cloud Gaming (Beta) 向けに 2024 年 5 月 21 日に発売され、Xbox Game Pass と PC Game Pass ではゲーム発売初日からプレイすることができます。
※この記事は米国時間 5 月 15 日 に公開された“How Ninja Theory Strives to Make Senua The Most Human Character in Gaming”を基にしています。