『South of Midnight』: 初公開ゲームプレイトレーラーで魔法の実体をほのめかす

物事を独特の手法で表現するのが好きな Compulsion Games ですが、『South of Midnight』は、まさにその哲学を突き詰めている輝かしい作品です。魅惑的なアメリカ深南部の民話を舞台にしたアクション アドベンチャーの本作には、Compulsion Games にしか織り込むことのできないオリジナリティがあります。

「Xbox Games Showcase」で初公開されたゲームプレイ トレーラーでは、その理由が垣間見えます。トレーラーは、物語が 3 分の 1 ほど進んだあたりのもので、本作のヒロインであるヘイゼル (Hazel、昨年公開の予告編に登場した人物) が再び登場します。が、今回は、ゲーム全体を通して彼女と行動を共にするしゃべる巨大ナマズの「キャットフィッシュ (Catfish)」と一緒にいます。トレーラーが始まる前、最大級の大型ハリケーンに見舞われたために、ヘイゼルは母親を見失い、同時に、自身に眠っていた能力の「ウィービング (Weaving)」に目覚めました。ウィービングとは、万物をタペストリーのように織り成すエネルギーを繊維として操り、違う形に織り直すことのできる魔法の能力です。現実そのものに綻びが生じつつあるなか、ヘイゼルは、民話のモンスターが突如として姿を現し、ハリケーンの爪痕で瓦礫と化した土地に腐敗が蔓延する、マジック リアリズムの世界の奥深くへと導かれていきます。

トレーラーの冒頭では、ヘイゼルとキャットフィッシュが母親の行方を追っていたところ、ゲーム上の伝説の生き物で、アメリカ南部に実在する民話から生まれた恐ろしい存在を発見します。今回登場するのは「トゥー トウド トム (Two-Toed Tom)」という、浮島くらい巨大な、目の見えないアルビノのワニで、洪水で冠水した地域を新たな縄張りにしています。キャットフィッシュから、廃墟の教会に行って、鐘を鳴らしてトゥー トウド トムの気を引けば逃げることができると助言され、ヘイゼルはさまざまなウィービングを駆使して、障害物を避けながら教会へと進みますが、その途中で悪霊の「ヘインツ (Haint)」によって行く手を阻まれます。

ヘインツは本作で最も登場頻度の高い敵で、多様な姿で現れます。ここでは典型となる獰猛な怪物の姿をしており、周囲のトラウマによって実体化した大量の負のエネルギーが絡み合うことでその姿を成しています。トレーラーでは戦闘シーンを確認でき、ヘイゼルはウィービングの力を操りながら、それに準ずる道具と魔法を使って敵を攻撃します。最終的に、ヘイゼルはその地に残った悪霊のエネルギーを弱らせ、「Unravel  (解きほぐす) 」とどめの一撃を与えます。ここで鍵となるのは、ヘインツが現実世界から去ると、ヘイゼルの周りに花が咲くという点です。ヘイゼルは何かを倒したのではなく、あくまで壊れていたものを元の姿へ修復したのです。『South of Midnight』は、こうしたヘイゼルの行いを含めて、独特な手法で表現されています。

独創性

トレーラーを見た後で、『South of Midnight』クリエイティブ ディレクターのデイビッド シアーズ (David Sears)、アート ディレクターのホイットニー クレイトン ( Whitney Clayton)、ゲーム ディレクターのジャスミン ロイ (Jasmin Roy) に話を聞きました。そこで、『South of Midnight』は、ひとつのビジョンを指針としてデザインされ、あらゆる点が意図と注意を含んで決定されてきた作品であることが明らかになりました。本作では、戦闘、ボス デザイン、アート、音楽に至るまで、すべての要素が物語に満ちあふれています。話の途中、チームにゲームプレイの要素について尋ねると、ゲームプレイが面白い理由だけでなく、その背景にある物語についても語ってくれました。すべての手がかりとなるのは、世界の修復を中心としたヘイゼルの物語と、新しくダークに染まった世界の隅々に巻き込まれた個性的なキャラクターたちです。

「ヘイゼル自身や、戦闘デザイン、能力には、首尾一貫して、同じメッセージが込められています」と、シアーズは説明します。「あらゆるものをウィービングで暗示しています。たとえば、ウィーバー (Weaver、ウィービングの使い手) には物事を正して、世界をより良い姿へと変えていく使命があります。ヘイゼルはその使命の通り、世界という名のタペストリーを織り直していくわけですが、私たちがかなりの時間を費やしたのは、ヘインツを含めたモンスターとの接触の際、致死的な攻撃を避けつつも、ヘイゼルに積極的に攻めの姿勢をとらせることでした。彼女は、世界に対する手助けをするため、つまりはその場に溜まってきたトラウマの重みを和らげ、取り除くために行動しているのです」

少し仰々しさのあるメッセージに聞こえるかもしれませんが、この方向性によってゲームへの道筋が立ち、土台ができたと同時に、『South of Midnight』の作品としての個性が際立ちました。開発チームが打ち立てたこの明確なメッセージ性を心に留めておきながら遊ぶと、本作が親しみやすいジャンルのゲームであるにも関わらず、未知なる体験に感じられるでしょう。

次に、『South of Midnight』の世界観について見てみましょう。Compulsion Games は、このゲームを「自由度の高い、リニア式の体験」だと説明しています。一本の明確な物語があり、始まりと結末は決まっているものの、道中で物語を切り上げ、周辺を散策することもできるということです。

「(プレイヤーは) 本当に自由に、あちこちを散策できます。だから、私たちも行ったり来たりして環境を構築しました。プレイヤーには物語に沿って本作を体験することも試してほしいですが、世界そのものにも、より強くのめり込んでもらいたいとも思っています。そのため、ときおり、オープンで探索のし甲斐のある、深みのある地点にさしかかることがあります」とロイ氏は説明します。ゲームの世界は Compulsion Games による入念に作り込まれたストーリーを伝えるために構築されていますが、踏みならされた道から外れることで、ゲーム内での貨幣、アップグレード、そして未知の景色を見つけることもあります。

それぞれの地域に特有のバイオームがあり、いずれもアメリカ南部の実在する場所の多様な地形から着想を得て、表現されています。シアーズはゲームの後半に関する詳しい説明は差し控えつつ、画像に写っている場所がミシシッピ デルタ近くの田舎であると教えてくれました。とはいえ、マジック リアリズムの介在する世界観であることから、Compulsion Games は、この世界における旅で何が起きうるのかを巧みに操ります。

『South of Midnight』の世界は、私たちが知っている現実に深く根ざしていると感じられます。事実、Compulsion Games の開発者たちは制作に役立てるため、ミシシッピに実在する、ワニだらけのゴースト タウンを旅してきています (ワニの縄張りを横断し、廃墟と化した教会に入って、参考写真を撮ってきた勇気ある開発者が 1 名だけいました)。一方、ゲーム内の旅では、そうした場所にはモンスターがはびこり、ウィーバーの助けが必要となる、歪んだ変化をもたらしているところを目の当たりにします。

「ヘイゼルの故郷は、現代の深南部から着想を得ました」とクレイトンは言います。「しかし、世界の奥深くへ入るにつれて、あらゆるものが徐々に幻想的、かつ超現実的なものになっていきます。『不思議の国のアリス』のような、境界を越える感じとは違った、民話の世界に没入していく感覚を狙いました」

トゥー トウド トムの歌

もちろん、民話には悪役がつきものです。トレーラーにその姿を現したトゥー トウド トムは、古代から生きる巨大なワニで、殺すことなど不可能そうな見た目をしており、実際にキャンプ ファイヤーを囲みつつ語られた伝承がもとになっています。クレイトンいわく、ヘイゼルの物語のひとつの章の中でトゥー トウド トムは「たびたび出没する」とのことです。トレーラーでは、その縄張りのほんの端っこを覗いただけですが、トムはこの地域を探索すると繰り返し姿を現し続け、最終的には決着を付けることになります。こうして、ゲームのひとつ章を通して高揚感のある「ボス戦」が繰り広げられるだけでなく、それぞれのモンスターが単純な対立構造に当てはまらない、個性を確立したキャラクターとして物語を彩ります。

「トゥー トウド トムは本作で唯一、人間が姿を変化させたものではない、伝説のモンスターです」とシアーズは説明します。「彼は人間のせいで変わってしまったのです。かつては生きる意志を持って生まれた普通のアリゲーターであるトムは、旺盛な食欲を持ち、不自由のない生活を送っていました。そしてトムは両生類であるため、食べれば食べるほど大きくなります。人間の介入によって過去に心に深い傷を負い、民間伝承や都市伝説で語られるようなモンスターに姿を変えたことで、トムは輪をかけてしぶとく、巨大に成長していきました」

本作の他のあらゆる要素にも共通する考え方として、ヘイゼルは自分の行く手を阻むモンスターを倒すのではなく、その心の傷を癒し、怪物化をまねいた痛みを取り除こうとしていることが分かります。トレーラー内でおそらく最も意表を突かれる部分は、トゥー トウド トムが今の姿になった理由が音楽によって語られているところでしょう。

昨年、このゲームは変化に富んだサウンドトラックで深南部の地域を表現していることが判明しましたが、トレーラーはその徹底ぶりが示されています。なんと伝説のモンスターそれぞれにテーマソングがあるのです。『A Plague Tale: Requiem』、『Get Even』の音楽を担当したオリヴィエ デリヴィエール (Olivier Deriviere) 氏の作曲、そしてシアーズと作詞チームの協力によって、それぞれの音楽はゲームに存在する領域の隅々の事情までを織り込むことで、世界観の奥深さを増しています。こうした音楽は全体を通してプレイヤーのアクションに反応し、プレイヤーが序盤はモンスターを避けているときも、最終的に救うことを試みるときにも、段階に応じてその物語をうたった壮大な叙事詩が楽しめます。ゲーム内で歌詞のある音楽が流れるのは珍しいうえ、至るところで物語性を引き立てるために作詞作曲されたオリジナルの楽曲が流れるのはなおさら珍しいことかもしれません。

「モンスターの生い立ちをたどる物語を歌詞に込めたいと思いました」とシアーズは言います。「モンスターの物語の道筋が途絶えたように感じられた場合は、曲を最初から最後まで聴けば、その全容が簡単に分かるようになっています。登場するキャラクターの過去についてプレイヤーが集められる、パズルのピースのような役割といえます」

目的ある一撃

舞台設定や楽曲は別物としても、戦闘や探索は、ゲーム デザインのなかでも冷淡で機械的な要素になりがちです。攻撃ボタンを押してヘインツやボスを倒しているときに、どのように物語性を出せるでしょうか。

Compulsion Games は、ここで巧みな手法をいくつか用いています。まず、ヘイゼルの戦い方や移動の仕方です。どれもウィービングの力を使うため、プレイヤーの操作と、壊れたものを直すという核となる目的とが本質的に結びつきます。たとえば、障害物を越える能力 (ウィービングで織った帆布を使った滑空飛行) や戦う能力 (必殺技の Unravelling) がトレーラーに出てきますが、ヘイゼルはウィービングの力を通して、より多くの呪文も獲得します。トレーラーでは、画面の左上に 3 種類のアビリティが表示されており、そこにはシステム面における工夫が見受けられます。

「今はまだ、このゲームプレイ トレーラーでお見せしたすべてを明かすつもりはありませんが、呪文は移動、謎解き、それに戦闘でも使えるようになります。さまざまなゲームプレイにおける要素を通して、ヘイゼルは能力の使い道を表現するようになります」と、ロイは言います。

トレーラーで見た能力は「ウィーブ」(織る)、「プッシュ」(押す)、そして「プル」(引く) です。ウィーブの呪文を使うと、オブジェクトを固定でき、障害物を越える際に役立ちますが、戦闘においては敵を拘束することもできます。プッシュとプルを使うと、オブジェクトを動かすことができ、謎解きの際に役立ちますが、戦闘においても敵の位置をある程度操ることができます。ゲームを進めるにつれて増えていく能力には、すべてに多種多様な使い道があります。ありとあらゆる状況で呪文を使って必要なものを生み出す様子は、ヘイゼルの能力が単なる破壊や生存のためのものではないことを暗示しているといえるでしょう。

クレイトンは、ウィービングのビジュアルさえも独創的な考え方を刺激するものを選んでいると説明します。ゲームにおける魔法は、火、水、風、地の古典的な姿を取り入れていることが非常に多いなか、ウィービングはその見た目からまったく異なるアイデアから出発したビジュアルであることが分かります。

「私たちに必要だったのは、(物語に) 結びつく何かを見つけることと、南部ゴシックの影響力を持つことで、女性的とされる手芸、とくに編み物をパワフルな力へと変えるというアイデアに繋がりました。この基本的な考えからインスピレーションを得て、まるで生きているようなレース、というようなアイデアを思いつくに至りました」

その結果、ビジュアルがキャラクターそのものと同じように物語性の重要な一部を担ったゲームが出来上がりました。また、『South of Midnight』における不気味に近い印象を与える動きもその一部を象徴しています。昨年のトレーラーでは、Compulsion Games のミニチュア模型のようなデザイン、ストップ モーション風のアニメーションが紹介されましたが、ゲームとして動作しているのを見れば、去年の予告編が決して単なる紹介用の映像ではなかったことが分かります。

開発チームは、シネマティック、探索、戦闘の間で演出をどれくらい目立たせるかを最適に調整していますが、『South of Midnight』が他のゲームと最も異なっている点のひとつは、ビジュアルに対するコミットメントにあるでしょう。

「度重なるテストと、こまやかな調整をしなければなりませんでした」とクレイトンは語ります。「ストップ モーション風のビジュアルの実現には非常に多くの労力が必要で、どういった表現が受け入れられるのか、そして何がミスに見えるのかを考えなくてはなりませんでした。本作のビジュアルの大半では、人間が物理的にどのような動きをするのかをリバース エンジニアリングしました。アート担当は、手作業でものを作って、そのうえでリバース エンジニアリングを行う必要がありました。本作に散りばめられたアニメーションでは、アニメのように映像をコマ撮りしたときの状態を再現しようと試みました」

ここで重要なこととして、Compulsion Games はただ単に他と違うアプローチを目指しているというわけではない、ということです。ヘイゼルの物語、深南部の描写、正確な表現のための現実世界でのリサーチ、そしてその結果隅々までしみ込ませることに成功した物語性のすべてに、揺るがぬ指針が存在しています。開発を進めるチームはその指針に沿って自分たちが制作しているものを信じつつ、その内容すべてに思いを込めています。

開発者たちと話しているうちに、前述したトレーラー内の要素すべてに、ごく細かい部分でも、補完的なバックストーリーが存在することを知りました。戦闘が行われる領域を囲む、腫れ物のように隆起した壁 (ネガティブなエネルギーが実体化したもので、「スティグマ (Stigma)」と呼ばれるものです) から、数多くの野生動物が存在する世界観 (アメリカ南部の粘り強い美しさを象徴しています) まで、普段なら疑問が湧かないようなことについて、何十分も話し続けました。そうした中でも、投げかけられるあらゆる問いに対して、開発者たちはすでに自問し、議論し、作品に存在させる意義について考え抜いていたのです。

『South of Midnight』は、題材とする古くからの民話と同じように、豊かな物語性が感じられ、これまでプレイしたことのないような作品になると確信できます。

『South of Midnight』は、Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、クラウド向けに 2025 年に発売され、Xbox Game Pass では発売初日からプレイすることができます。

[翻訳注] 本文中の固有名詞は開発中のものであり、その日本語訳も仮称です。

※この記事は米国日時 6 月 9 日に公開された “South of Midnight: How the First Gameplay Trailer Hints at the Magic to Come” を基にしています。