文楽とのコラボが『祇:Path of the Goddess』の世界に生命を吹き込む

神住まう 緑豊かな「禍福山 (かふくやま)」
いずこからか禍々しい黒煙がたちのぼり、見る間に山を覆う…
美しかった山は見る影もなく、村人たちの暮らしも途絶えた
山を襲ったのは「穢れ (けがれ)」
穢れは山を覆い尽くし、神の力を宿した十二の「面」をも奪っていった
巫女「世代」と、その護人「宗」は
救い出した村人たちと 取り戻した面の力を借り
穢れを祓い、世の縺れ (ほつれ) を解き納める祭祀を執り行う

「大阪から世界へ」をスローガンに掲げるカプコンが贈る『祇 (くにつがみ):Path of the Goddess』は、独創的な”和”の世界観に「アクションと戦略」を織り交ぜた完全新規の神楽戦略活劇です。プレイヤーは山の巫女である「世代 (よしろ)」の護人である「宗 (そう)」として、昼と夜の二つのフェイズを通して、迫りくる「畏哭 (いこく)」から巫女を護り、戦うことになります。

昼のフェイズでは村の探索が主な活動になります。蔓延する穢れを祓い、村人を助け出し、時には畏哭の攻撃を一定時間防いでくれる「仕掛け」を発見し、夜のフェイズの戦いを有利に進めるための準備を行いましょう。救い出された村人は「面」の力を通してさまざまな職業を与えることで、宗と共に戦う心強い味方へと変貌。近距離攻撃役、遠距離攻撃役を含めた様々な役割に就かせることができます。

夜のフェイズでは穢れてしまった鳥居から現れる畏哭、そして時にはより強力な敵である「血の穢れ」を相手に巫女を護りましょう。この時、宗はプレイヤーの意志のまま刀を振るい、村人たちも昼のフェイズに布陣をしていれば戦いに加勢してくれます。配置や職業などを自由に変更する「采配」はリアルタイムで揮えるため、刻々と変化する戦況に適応した戦略を用いて、巫女を護りぬきましょう。

『祇:Path of the Goddess』のゲームプレイ体験に関するより詳細な情報は、以下の Xbox Wire Japan 記事よりご確認ください。


『祇:Path of the Goddess』の発売が明日と迫る今、カプコンは日本を代表する伝統芸能の一つで、「太夫 (たゆう)」、「三味線」、そして「人形」が一体となった総合芸術である「人形浄瑠璃文楽 (にんぎょうじょうるりぶんらく)」とコラボ。『祇:Path of the Goddess』の前日譚を、人間国宝の人形遣い、三代目桐竹勘十郎さんが巫女を演じる特別映像『山祇祭祀傳 巫女の定の段』 (やまつみさいしでん みこのさだめのだん) として公開しました。


『山祇祭祀傳 巫女の定の段』


映像の公開に先立ち、Xbox Wire Japan はこの演目が上演、撮影された国立文楽劇場での合同インタビューに参加。桐竹勘十郎さん、『祇:Path of the Goddess』のディレクターを務めるカプコンの川田脩壱氏、そして当日演じられた人形浄瑠璃の床本 (台本と同義) を執筆したカプコンの野添大祿氏を迎え、伝統芸能とゲームのコラボレーションについて伺いました。

(左から) 川田脩壱氏、桐竹勘十郎さん、野添大祿氏

まずは、コラボレーションの経緯についてお尋ねします。今回、カプコンの開発チームから「こんなことをやりたい」とお声掛けが行われ、桐竹勘十郎さんにご快諾いただけたことが出発点だと伺っています。まずは、そこに至るまでのお話をお聞かせください。


野添氏: 元を辿れば、『祇:Path of the Goddess』の構想を練る中で交流した川田が熱烈な文楽ファンで、彼の働きかけもあって二人で観劇に出かけたことがきっかけかもしれません。その観劇で大変感動して、「こんなに面白いものがあるんだ」と国立文楽劇場にお声掛けをさせていただいたという流れがありました。川田に文楽の世界との繋がりがあったことも幸いし、色々なお話をしていく中で今回のような企画について提案をさせていただくことが叶いました。『祇:Path of the Goddess』は、いわゆる「演目感」なども考えられて制作されたゲームですので、今回このような形でコラボ企画が結実して、大変感動しています。

着々と『山祇祭祀傳 巫女の定の段』の準備が進められる国立文楽劇場

勘十郎さんにお尋ねします。初めて文楽で新作ゲームとのコラボレーションで上演を行いたい、と企画の説明を聞かれたとき、どういう風にお感じになりましたか。


勘十郎さん: 内容がすぐには頭の中でまとまらず、企画の実現のためにはどうすればいいのか、少し悩むことになったことを覚えています。しかしながら、これまで様々なコラボを実施してきたこと、そして文楽を通したコラボが好きという性分もあり、出来るなら協力したいと申し出ました。撮影までに心の整理が上手くできたことで、素敵な映像が出来上がったと思います。

演目直前の打ち合わせに参加する桐竹勘十郎さん

お話が少し前後しますが、勘十郎さんはご自身でテレビ ゲームは遊ばれますか。もしくは、お近くの方がゲームをお好きだったりしますか。


勘十郎さん: 画面の中で起きている物語に入り込めるという点、そして世界に日本の文化としていろいろな物語を発信できるという点から見ても、ゲームというものは面白いですね。我が家では子供たち全員、ゲームが大好きなんですよ。私自身も若い頃は初期の、単純なテレビ ゲームを楽しませていただきました。子供たちはついつい遊びすぎてしまうので、親の立場としては上手に付き合うために指導したことを覚えています。今は主にゲームを遊ぶのが子供から孫の世代へと移り、一緒に遊ぼうと声がかかるようになりまして、時間があれば一緒に楽しんでいます。私自身、今でもはまるとのめり込んでしまうので少し気を付けています (笑)。


企画の話をしているとき、カプコンのキャッチ フレーズ「大阪から世界へ」に大変共感されたとお聞きしています。


勘十郎さん: まさに。大阪で生まれ、大阪で育てられた芸能が文楽ですから。大阪からより外へ、向こう側へと発信していこうという姿勢は一緒だと感じましたね。


企画が進み、『祇:Path of the Goddess』のゲーム映像やコンセプト アートをご覧になったことで熱が入り、人形の制作にもさまざまなアドバイスをされたと伺っています。ゲーム映像を初めて見たときの印象、そして企画が進むにつれてお持ちになっていた感想を教えてください。


勘十郎さん: まずはとにかく、映像美に惹き込まれ、考案されていたキャラクター像も面白いなと感じました。なにぶんゲームから少し離れていたもので、最近のゲームの進化に驚かされたというのが正直なところかもしれません。同時に、映像に出てくるキャラクターたちをどのように人形として制作すればよいのか考えなければならない、という悩みの種も増えましたね。私が専門とするのは歴史的な出来事や人々をテーマとする「時代浄瑠璃」のため、今回の企画は人形を制作して、少し動かすくらいのものになるかな、と考えていたのですが。なんと物語、そして床本まで書いていただいているとお聞きして、とても奥深く楽しい企画へと姿を変えてきたなと感じました。


先ほどお話に出てきた床本は、カプコンの野添氏が書いたものだと伺っています。


勘十郎さん: 最初はどなたが書かれたのか知らなかったのですが、一読させてもらうと非常に重厚、あるいは重苦しい床本とでもいうべきもので、とても読みごたえのあるものでした。この床本が特に面白かったのは、ふさわしい曲を簡単に付けることが出来ない床本が多いなか、初見で曲のイメージが湧いたことでしたね。最終的な曲は三味線の方が付けるわけですが、私の方でも感じるものがあり、それだけよいものに仕上がったんじゃないかなと感じています。

人形浄瑠璃にかかせない太夫 (左) と三味線 (右二人)

人形の制作、そして実際の演技にあたっても、沢山のアドバイスや提案をされたそうですが。


勘十郎さん: 人形の制作にあたって、キャラクターが今の姿になる過程を資料としていただいたのですが、衣裳の重ね方、化粧の仕方など、綿密な時代考証も行いつつ非常に手間がかかる作業を経てキャラクターたちの姿が完成したのだな、とまずはその本格性に感動しましたね。そうして完成したキャラクターたちを立体の人形にするとき、浄瑠璃で一般的な「三人遣い」という手法で使える姿へと落とし込む際には相応の難しさがありました。

より理解を深めるためにキャラクターたちのデザインを改めて紐解くと、そこでも手間暇がかかっていることを再発見して、改めて感動しました。ごく最近、完成した人形を三人遣いで初めて動かしたのですが、求めていた動作がうまく出来たことから今回の人形は浄瑠璃に使える高みにまで上手く仕上げることが出来たと思っています。

限られた時間、かつ忙しい中、衣裳や人形の頭 (かしら) の制作を手伝ってくれた文楽劇場の皆さんには大変感謝しています。人形拵え (にんぎょうごしらえ) というのはとても大事な作業なのですが、一日の公演であっても人形が無ければ成立しないわけです。ごく短期間の使用であっても、人形遣いが自分の遣う人形を制作しなければなりません。今回は企画の特殊性もあって、私がすべての人形拵えをしましたが、悩みつつもとても楽しめました。

こうした経緯から、6 月は出番がなくお休みだったはずが、この企画で走り抜けてしまいました。しまいました、とは言いますが、実は元々漫画家志望だったこともあり、造形や絵を描いたりデザインを制作したりといったイラストレーション全般は生来好きなんです。人形が着々と完成へと近づくのを楽しみにできたこともあり、大変充実した月になりました。ちなみに、巫女人形を装飾している勾玉は完全自作の品になります。

国立文楽劇場の楽屋入り口には芸能を司る高倉稲荷の神棚があり、出演者はお祈りをしてから楽屋入りするのが習慣となっている。

川田氏、上演されたものを見ての感想をお聞かせください。


川田氏: 衣裳の段階で何度か見せてもらって、いずれの際もスンとしているなという印象を持っていたのですが、動きが加わることでまるで魂が込められたかのように感じられました。演目中はスコープで舞台を覗いていたのですが、まばたきだったり指の動きだったりといった極めて繊細な動きが、人形と物語に生命力を吹き込んでいるかのようでした。本当に感動しました。

制作した「宗」と「巫女」人形と共に並ぶ桐竹勘十郎さん

企画を進めるにあたって、意欲的な目標を野添氏が設定したと伺いました。『祇:Path of the Goddess』を基にした人形浄瑠璃の上演、という考えうる最高の結果となったことについて、感想をお聞かせください。


野添氏: 今回の企画は元より意欲的な狙いがあったというよりは、「大阪から世界へ」を共に掲げていることから、何かご一緒できないかを探るところから始まりました。もちろん、心の奥底ではショート演目などが実現すれば嬉しいなと思ってはいましたが、まずは人形を制作して展示しようと。企画の話が進むにつれ、その内容の「らしさ」を追求するうえで何かを一つ形にしてみようと思い、近松門左衛門の書いた床本を、書かれた時代背景を含めてかなりの数読み込んだうえで、実際に床本の制作に取り組んでみたんです。研究の末に学んだのですが、床本には五七調の表現が多く、台詞にも独特の言い回しがあり、そうした点は今回の床本制作の際、参考にさせていただきました。結局、自分の中で予想していた着地点からは想像もつかないところまで企画が発展したわけですが、ここにたどり着けたのは太夫、三味線、そして人形遣いの皆さまが床本を磨きぬいてくれたからこそだと感じています。この物語の構想を練っていたのは自分のはずなのですが、実際の演目を観劇してみると全く別種の感動が襲ってきましたね。


今回、『山祇祭祀傳 巫女の定の段』を演じた際に、イメージしていた表現と一致したシーンがあれば教えてください


勘十郎さん: これまでは狭い稽古場での練習がメインだったため、足取りが完全には掴み取れていなかったのですが、舞台に上がったと同時に、まるで慣れ親しんだ演目のように感じられましたね。これは『山祇祭祀傳 巫女の定の段』が作品として、浄瑠璃というのがしっかりと出来上がっていたからだと考えています。基本が上手く出来ていると、人形遣いはとても動きやすいわけです。浄瑠璃として書かれた床本があり、三味線の作曲がちゃんとしていたから、人形遣いが活きるような演目になったように思えます。演者に聞けば分かるのですが、人形浄瑠璃というのは間の取り方、そして人形の遣い方を常に周りに伝えています。主遣い (おもづかい)、左遣い (ひだりづかい)、足遣い (あしづかい) の三名が息を合わせて人形を動かし、同時に合図も出していくのですが、今回の演目は誰しもがまるで古典的な浄瑠璃であるかのように、すんなりと理解して連携を取ることができました。ただ、踊りはやはり少し疲れますね (笑)。

様々な役に応じて、人形の頭はデザインされている

川田氏: 演目のアレンジ、そして表現の落としどころを綺麗に見定めていただけたと感じています。人形の絶妙な動きや、関節の端まで神経を伸ばしたかのような動きには見惚れてしまいました。


『祇:Path of the Goddess』と文楽のコラボを経て、感慨などあれば教えてください。


野添氏: 『祇:Path of the Goddess』は、新しいものに挑戦をしながら伝統的なものも大切にしているゲームです。今回の企画は「『祇:Path of the Goddess』の良さを文楽の世界の中で表現するんだ」というよりは、逆に「文楽」の魅力をいかに『祇:Path of the Goddess』の世界観とマッチさせられるかを考え、押し出していくことを肝としていました。そのうえで床本を監修いただいた際にとても感動したのは、勘十郎師匠がいかに絶妙なバランス感覚で調整を入れてくれたか、というところでしたね。『祇:Path of the Goddess』の表現に寄せるべきところは寄せ、我々としては「ここは文楽的に」と考えていたところも丁寧に汲み取ってくださいました。その結果、今回の浄瑠璃はとても気持ちのいいところに落とし込めたと考えています。

勘十郎さん: 嬉しいですね。こういうのって、続編を考えるのも面白そうではありませんか?

野添氏: 是非やりたいです。

勘十郎さん: 劇場の皆さまを困らせたくはないのですが、通し狂言 (長編にわたって演じられる狂言のこと) でやってみたいですね。ここから芝居にして、舞台で物語を成立させられたら面白いなと。そういう新たな試みというのが、大阪で生まれて育ってきた人形浄瑠璃で行えることは本当にうれしいことだと思います。今や常識となっている「三人遣い」が考え出されたのが 1734 年ですので約 290 年前に、この技術を考えた人がいたわけです。それをずっと守ってきた人形浄瑠璃が、今最新のゲームと心を通わせられているというのが不思議なような、嬉しいような……。

野添氏: 本作のゲーム開発の中でも、人形浄瑠璃の演出や動き方などを参考にしていたという経緯があり、今回の企画でお話をさせてもらう前から、『祇:Path of the Goddess』には多分に文楽の要素が沁み込んでいます。また、ゲーム内の背景の制作方法も非常に特殊で、一度ミニチュアを制作してから、実物をデータとして取り込むという手法を取っており、そういったリアル感を非常に大事にする川田ディレクターだったからこそ、色々と噛み合わせがよかったなと思っています。


今回の企画は、記事を読んでから舞台映像をご覧になる方、もしくは既に一度観たうえで記事をお読みになり、再び観劇されたいと思われる方がいると思います。そうした「文楽が初経験」な方々に向けて、観賞のコツなどがあれば教えていただきたいです。


勘十郎さん: 人形遣いとしては、三人での息を合わせた人形の動きをぜひ念入りに見てもらいたいです。主遣い、左遣い、足遣いという全く別の三人の人間が一体となって、一つの人形の挙動を完成させている。これは約 290 年前から磨かれてきた技術で、その点からも浄瑠璃というのが如何によく出来たものかを体感していただけると思います。一回聞いた (観劇すること) だけでは中々分からないこともありますが、何度かお聞きになると、その良さがふと心に来る瞬間があると思います。そうなったならば、どんな演目をお聞きになってもご満足いただけるでしょう。何を言っているか、そして何を語っているかが分からない、そういった感想もありますが、ご安心ください。語りは日本語の良いところで出来ているので、次第に理解を深めてもらえるでしょう。ぜひご注目いただきたいです。

野添氏: 今回の題材として『祇:Path of the Goddess』が選ばれているということで、まず一度そのストーリーを知っていただくのも良いかもしれません。原作には主人公の宗、そして巫女が存在していて、この二人のお話は幾度となく繰り返されてきたものであり、ゲーム自体も連綿と続けられてきた物語の内の一つとなります。『山祇祭祀傳 巫女の定の段』は『祇:Path of the Goddess』本編の前日譚なのですが、登場する宗、そして巫女が本編とどのように繋がるのか? 実際にゲームを遊んでみたうえで、改めて観劇いただければ嬉しいですね。

川田氏: ゲームをプレイした後に観劇されると、より『祇:Path of the Goddess』の理解が深まるような仕掛けをご用意しています。また、観劇の上で本編のエンディングを振り返っていただければ、「ああ、だからこうだったのか」と腑に落ちるようになっています。ぜひそうした点も、『山祇祭祀傳 巫女の定の段』の面白味の一つとして捉えて欲しいですね。

野添氏: 演目自体は宗と巫女が自分の定めを知って、今から冒険を始める、というような前日譚になっているのですが、なぜこの二人はこのような定めになっているのかを深堀りしているので、ゲーム本編と補完しあったときその真価が感じられるかもしれません。舞台としては、私が文楽を知って初めて衝撃を受けた、人形遣いが行う足拍子というものも表現していただいています。初めて体験したとき、まるで心臓を踏まれているような音が全身を駆け抜けたのですが、これが浄瑠璃を盛り上げる要素として見事に組み込まれているんです。まさに総合芸術と呼べる人形浄瑠璃を、映像としても、そして音としても記録したので、ぜひヘッドフォンなどで、迫力の音をお楽しみいただければ嬉しいです。

勘十郎さん: 私たちは当たり前のように足拍子をしていますが、見ている人は不思議に思ったり、感動を覚えるんですね。

川田氏: より迫力のある音をお届けするため、カプコンのサウンド班が、今回収録したサウンドを 5.1ch でミキシングしてくれるかもしれません (笑)。

『祇:Path of the Goddess』はXbox Series X|S、Windows PC で、もう間もなく発売予定です。Xbox Game Pass に加入いただいている皆様は本作の発売初日からプレイすることができます。無二の独創的な世界観、「アクション」と「戦略性」を融合したプレイ体験をぜひお楽しみください。