『Afterlove EP』はファーミの”スワンソング”― ジャカルタでの生活、愛、そして音楽

概要

  • Afterlove EP』は、『Coffee Talk』と『What Comes After』で著名なクリエイター モハメド ファーミ(Mohammad Fahmi Hasni) 氏の遺作となる新しい日常系アドベンチャーです。
  • 本作の開発を元々リードしていたファーミ氏が突然この世を去った後、Pikselnesia のチームメンバーたち自身がその悲しみを乗り越え、ゲームの感情的な展開と並行するように、いかに開発を続けていったかについてお話します。
  • 『Afterlove EP』は 2 月 14 日より Xbox Series X|S で発売中です。

私たち Pikselnesia が、インドネシア屈指のストーリーテラーであるモハメド ファーミ(Mohammad Fahmi Hasni)氏から『Afterlove EP』の企画を初めて聞いたとき、これは特別な作品になるだろうと感じました。しかし、それがこのような展開になるとはまったく予想していませんでした。

ファーミ氏と初めて会ったのは、面白いことにマッチングアプリでした。ごく短い期間の交際の後、私たちは一時の交際以上の、はるかに素晴らしい”何かを創り出す運命にある”ことを感じました。『What Comes After』が形になる前から、彼は当時「Project Heartbreak」と呼ばれていた本作の原型となる企画を思い描いていました。その段階ではまだ具体的なストーリーはできておらず、失った恋人の”声”が頭の中で鳴り響く中、前に進もうとする苦痛を描くというものでした。

そして、本格的な制作段階に入ろうとしていた矢先、ファーミ氏が亡くなりました。私は、何か間違ったことをしていただろうか、何か別の方法があったのではないかと、大きな悲しみの中で数ヶ月も過ごしたことを覚えています。ファーミ氏の死は本当に突然で、悲劇的で、衝撃的なものでした。

チームとパブリッシャーが最終的に私をナラティブ リードに選んだとき、私は何をすべきか正確に理解していました。本作の主人公は、私が感じたことをなぞればいいのです。

私は、主人公を地獄に突き落とすつもりでした。

チームが暗闇の中で制作を継続する中で、ファーミ氏が残した大きな穴を埋めるのにみんなが苦労していることを知っていました。プロデューサーのアイヴァー (Ivor)氏は、ゲームジャーナリストとして活躍していた以前からファーミ氏と知り合いでした。そして彼は、不可能とも思える仕事を担うことになったのです。それは、中心人物を失った状態でスタジオを率いるという重荷です。彼は Pikselnesia を管理し、パブリッシャーの Fellow Traveler と調整を行い、ファーミ氏の家族に開発状況を伝え続けました。アイヴァーには AAA モバイルゲーム業界での実績があり、私は彼が有能であることを知っていました。しかし、友人を失った悲しみに暮れるチームを導きながら友人の死を悼むということは、心が引き裂かれるような苦しみだったに違いありません。

もう一人の共同リーダーであるダマス (Damas) 氏は、インドネシアにおけるゲーム業界の柱となる人物です。バンドンを拠点とする彼のスタジオ Rolling Glory Jam は、私たちが『What Comes After』をリリースする数年前から支えてくれていました。そして、『What Comes After』で一緒に働いたギリ (Giri) 氏がいました。『Afterlove EP』のリードプログラマーとして彼と再び会えたことは、まるで昔からの仲間と再会したような気持ちになりました。もう一人のプログラマーであるダニー (Dany) 氏は、PC と Nintendo Switch 版のバックエンド管理を担当しながら、クリエイティブ ディレクターの役割も担っています。私は以前、ファーミ氏のそばに立つ彼らの姿を見たことがありました。彼らの悲しみの深さを完全に理解することはできないかもしれませんが、ファーミ氏による最後の傑作で、彼が最後の力を振り絞って生み出した作品を、完成させようとする彼らの決意を感じることができました。

『Afterlove EP』は、ファーミ氏とコーヒーを飲みながら話しただけの段階でさえ、ファーミ氏はすでにイラストレーターの Soyatu 氏にアートディレクションを担当させたいと考えていました。私はその発送に畏敬の念を抱いたことを覚えています。死をテーマにしたゲームに、Soyatu 氏のユニークなスタイルが融合することで、間違いなく注目を集めるだろうと思ったからです。さらにファーミ氏が背景美術を制作する会社 Pinga を見つけてくれました。Soyatu 氏が描いた生き生きとしたキャラクターを完璧に引き立てる背景ができあがり、私は安心しました。彼らのアートは、全体として見事に調和したのです。そして、マキシ (Maxi) 氏がチームに加わったとき、そのすべてがうまくかみ合いました。Soyatu 氏のキャラクターが実際に歩き、実際に話す姿は少しシュール的にも見えましたが、それは理にかなっていたのです。マキシ氏は以前、Thinker Studio でギリ氏と一緒に仕事をしたことがあり、私は彼の才能を疑ったことは一度もありませんでした。

このオールスターチームこそ、ファーミ氏のビジョンに必要なものであり、この中の誰が欠けても不十分だったでしょう。ファーミ氏のジャカルタに対する愛はとても深く、混沌とした街並み、穴場的な飲食店にひっそりと佇む隠れた名店、活気あふれる音楽やアート文化など、それらすべてが彼を形成し、どうしようもないロマンチストな気質を育みました。だからこそ、彼はプロジェクトにインドネシアのインディーバンド「L’Alphalpha」を早い段階から招き入れたのです。このシューゲイザー バンドの音楽はどこか映画的な雰囲気を持ち、インドネシア語で書かれた卓越した歌詞は、感傷的でありながらも悲しすぎず、痛みは感じられますがそれに飲み込まれないような歌を奏でます。それは、ファーミ氏が『Afterlove EP』で表現したかったことそのものでした。

『Afterlove EP』では、心臓病で亡くなったガールフレンドのチンタを失った無表情な若いミュージシャン、ラーマの人生を体験します。彼女が不在の重みに耐えるだけでも、ラーマはすでに圧倒されてしまっています。悲しみ、トラウマ、罪悪感が入り混じり、心の中を容赦ない嵐が吹き荒れています。さらに辛いのは、チンタの声がラーマの心から消えることがない、という点です。彼女は彼の心に残り、語りかけ、問いかけてくるので、前に進むことはまだ無理だと感じさせています。

ラーマが人生の新たな章へと歩み出すにつれ、彼は未来を形作る選択に直面するでしょう。ミラ、レジーナ、サトリアという 3 人の女性との恋愛関係もその選択肢のひとつです。しかし、チンタは依然として彼の心の中にいます。彼女はずっとラーマを見守っているのです。そして、彼の決断に語りかけてきます。時には、彼が前進しようとするやり方に反対することさえあるでしょう。それはまるで、記憶の中に消え去ることを拒否する存在のように。一方、彼のバンド「ジークムント      フュート」は辛うじてまとまっている状態です。深い悲しみに暮れていた時期にラーマが不在だったこともあり、ようやく彼が戻ってきたときには、バンドメンバーの仲は悪化していました。ガレージで友人たちとバンドを組もうとしたことのある人なら理解できるでしょう。時には個人的なドラマに巻き込まれ、またある時には野心がぶつかり合います。インディーズバンドには、すべてがバラバラに崩れ去ってしまいそうな瞬間が常に存在しているのです。

ラーマの新しい人生で最もイベントの多い 1 ヶ月をたどる中で、あなたは Soyatu 氏の独特なアートスタイルに没入することになるでしょう。それは、操作して対話するキャラクターのグラフィックだけでなく、ゲーム全体に織り込まれた美しいコミックにも現れています

また、「L’Alphalpha」の素晴らしいシューゲイザー ポストロックのサウンドトラックに合わせて演奏しながら、ラーマがバンドの練習やライブでどれだけうまく演奏できるかをコントロールすることもできます。

ジャカルタそのものが『Afterlove EP』において重要な役割を果たしており、チームにとってかけがえのない現実の場所が存在します。もしかしたら、いつかあなたも同じ通りを歩き、彼の目を通して街を見て、彼がなぜこの街に恋をしたのかを理解する日がくるかもしれません。

説明したいことはまだたくさんありますが、『Afterlove EP』を実際に体験するときの驚きを台無しにしたくないので、このあたりで締めさせていただきます。この旅路で私たちを支えてくださった皆様に、心より感謝いたします。ついに私たちはゴールにたどり着きました。そして、ファーミ氏の最後の傑作を世に送り出すことができたのは、皆様のおかげです。それではまた、いつかお会いしましょう。

※この記事は米国時間 2 月 14 日 に公開された“Fahmi’s Swan Song: Afterlove EP – Life, Love, and Music in Jakarta”を基にしています。