「本当に自分たちが作ったものなのか?」―― 『スプリット・フィクション』が作り出す協力型アドベンチャーの未来

スプリット・フィクション』の開発が大詰めを迎えたあるとき、ディレクターのジョセフ ファレス (Josef Fares) 氏は、自身の新作となるストーリー主導の協力型アドベンチャーをプレイしているとき、あることに気がつきました。

「実にクレイジーなんですよ。開発中は何度も何度もプレイしているはずなんです。なのに、リード デザイナーの 1 人と一緒に改めてプレイしたあるとき、“私たちは何を作ってしまったんだ?” と感じてしまいました。まるで夢から覚めたときのように、“これは本当に自分たちが作ったものなのか?” と。中に詰め込まれている要素がとんでもない量なんです。繰り返しますが、実にクレイジーなんです」

本日 Xbox Series X|S で発売された『スプリット・フィクション』を前に、ファレス氏は感慨深い気持ちになっています。彼のスタジオである Hazelight Studios のチームはすでに次のゲームの制作に取り掛かっていますが、ファレス氏にとっては過去を振り返る反省の時間になっているように感じます。そして、彼から感じられたもっとも大きな印象は、チームの成長を誇りに思う気持ちでした。

Hazelight Studios は、現在同社が制作しているゲームのジャンルを確立したスタジオだと言っていいでしょう。名作『Brothers: A Tale of Two Sons』では、ストーリー主導型のアドベンチャーにおいて、シングルプレイ ゲームでありながら複数のキャラクターを操作するスタイルを実験し、ファレスはさらにそのアイディアを推し進めることを目標に、現在のスタジオを設立しました。『A Way Out』では真に独創的な協力プレイ専用のストーリーを制作し、The Game Awards 2021 で Game of the Year を受賞した『It Takes Two』では、ジャンルを真に驚くべき領域へと押し上げました。

『スプリット・フィクション』は、ファンタジーと SF というビデオ ゲームの世界で馴染みのある世界を使いながらうまく融合させて、目まぐるしいスピードで展開する新しいアイディアでその融合を打ち破っていきます。ある瞬間には、苦境に立たされた中世の村でトロルから逃げていると思えば、次の瞬間にはサイバー ニンジャとして何十人もの敵を斬りつけたりレーザーで攻撃したりしています。そうかと思えば、魔法のブタのカップルになって……と、この部分については皆さんご自身の目でぜひ確かめてください。

序盤は Hazelight Studios おなじみのスタイルに思えるかもしれません。このゲームも2人プレイ専用 (ローカルまたはオンライン) であり、シングル画面と分割画面のセクションを組み合わせて、常に新しいゲーム メカニクスをプレイヤーに投げかけます。ファレス氏は、彼のチームが新しいメカニクスを作り、実験的な物語を語るための仕組みが大きく前進したと捉えています。

「自然な進化です」とファレス氏は言います。「より成熟したチーム、より優れた技術ツール、メカニクス設計に対する深い理解、協力プレイのストーリー作成能力の向上、そして何を削って何を残すべきかを早い段階で理解できるようになりました」

「エンディングまでプレイしてください。今までのビデオ ゲームでは体験できなかったものが体験できるでしょう」

ファレス氏は、設立当初の Hazelight Studios では『スプリット・フィクション』は作れなかったと述べています。そして、過去作にどれほど精通していても、Hazelight Studios は本当に驚くような新しいアイディアを隠し持っているのです。

「最後までプレイしてみてください。そうすれば、私が言わんとすることを理解できるでしょう。私を信じて、エンディングまでプレイしてください。今までのビデオゲームでは体験できなかったものが、そこにあります」

Hazelight Studios の原動力は、誰も試したことのないことを実現することにあるのかとファレス氏に尋ねると、彼はもっと微妙なニュアンスで自身の仕事を捉えています。

「Hazelight Studios で最も重要なことは、私たちの仕事に情熱を持つことです。”常に新しいものを” といったような特別ルールはありません。ただ、その情熱を感じることが必要です。なぜなら、その情熱がなければ、ゲームは面白くならないからです。私たちは自分自身を前進させることも大好きです。”これまで私たちが試したことのないことは何だろうか? まだ試したことがない何かができないだろうか?” と、常に次の挑戦を用意しています。これは素晴らしいことだと思います」

『スプリット・フィクション』における最初の情熱は、SF とファンタジーを組み合わせるというアイディアでした。物語は、出版契約を結ぶことを期待してハイテク企業に招待された 2 人の作家が、実際には彼らのアイディアが新しく開発された技術によって吸い取られ、再利用されていることに気づく……というところから始まります。口論の末、2 人の作家は自分たちの作品を基にした物語の世界に引き込まれ、まったく異なるアイディアが互いに融合していきます。プレイヤー (と協力プレイのパートナー) は、ファレス氏が「プレイ可能なバディ映画」と表現するような、奇想天外な体験をすることになります。

ファレス氏と彼のチームは、このアイディアの中に過去作を超える方法を見いだしたのです。

「次のレベル、さらにその次のレベルへと進むことでプレイヤーを飽きさせず、この “一体何が起こっているんだ?” という感覚を保ちながら、テンポが適切であると感じてもらうためにはどうすればいいでしょうか。それは、常にプレイヤーの予想を裏切りながら、そこに楽しませる何かが待ち構えていればいいのです」

「『スプリット・フィクション』では、ドラゴンに乗る場面があります」

もちろん、これは膨大な作業です。『スプリット・フィクション』では、15 分ごとに新しいゲーム メカニクスが導入され、それまで使っていた古いメカニクスが破棄されていくように感じられますが、それぞれの新しいアイディアが中途半端に感じられてはいけません。

「『スプリット・フィクション』ではドラゴンに乗る場面があるのですが、そのドラゴンを 1 体作るのに 8 ヶ月かかりました。初期の頃は、チーム メンバーの多くが “こんなに時間をかけているのに、プレイ時間はたったの10分程度なんですか?” と疑問に思っていました」

しかし、ここで重要なことがあります。映画では、多大な費用をかけた素晴らしいシーンがあっても、そのシーンを再利用することはありません。ビデオ ゲームでは、費用がかかったから再利用する必要があるという考え方がときどきあるように感じています。なぜ再利用しなければならないのでしょうか。再利用すると、初めて体験したときの実際の感覚が失われてしまいます」

『スプリット・フィクション』は、その哲学を自然な形で極限まで推し進め、膨大な量のコンテンツを含まれています。『It Takes Two』には途中でミニゲームがいくつか含まれていましたが、これらのセクション (途中で見つかるポータルからアクセス可能) は、さらにその先まで進んでいます。

ここでは、まったく新しいメカニクス、新しいボス、新しいビジュアルの世界を備えた、本格的な世界が展開されます。文字通り、ゲームの中に新しいゲームがあるようなものです。

デザインとしては実に大胆なアプローチですが、ファレス氏はこのアプローチが成功を収めたことで自信を深めています。彼の過去 2 作のゲームは数百万人が購入し、まさに彼がやっていることを望む人々の存在を示しています。

いずれにせよ、彼が方向性を変えることはないでしょう。

「まあ、こういうことです。私は誰にも迎合したことがないんですよ。『Brothers』のときもそうでした。正直なところ、私はまったく気にしていません。Hazelight Studios では、常に自分たちのビジョンを貫いています。創業以来ずっとそうです。『Brothers』や『A Way Out』では多くの疑問の声がありました。『It Takes Two』も同様です」

「確かに、今では外部からの疑問の声は少なくなりましたが、それはあまり重要ではありません。ゲームは常に私たちが作りたいと思うゲームであり続けます。私が保証できるのは、Hazelight Studios は常に情熱的であり、自分たちが作りたいゲームを作り続けるということです。私たちは決して変わりません」

ファレス氏は、Hazelight Studios の次回作がどのようなものになるか明かしてくれません。協力プレイ形式を続けるかどうかさえも、明言しようとはしませんでした。しかし、『スプリット・フィクション』は、彼のチームが現状に甘んじていないことを証明しています。数年後、ファレス氏は再び腰を下ろし、「本当に自分たちがこれを作ったのだろうか?」と自問自答しているだろうと、私はほぼ確信しています。

※この記事は米国時間 3 月 5 日 に公開された “Did We Actually Do That?”: Josef Fares Explains How Split Fiction Pushes the Co-Op Adventure Genre Further Than Ever” を基にしています。