「プレイヤーと歌う」―― Compulsion Games がいかにして『South of Midnight』の素晴らしい音楽演出を作り上げたか

概要

  • オリヴィエ デリヴィエ (Olivier Deriviere) 氏が手がけた『South of Midnight』サウンドトラックの、Spotify、Apple Music、Amazon Music、Bandcamp など、主要なストリーミング プラットフォームでの配信がスタートしました。これを記念して、デリヴィエ氏とオーディオ ディレクターのクリス フォックス (Chris Fox) 氏にインタビューを行い、ユニークなゲーム音楽体験の制作についてお話を伺いました。
  • 開発元の Compulsion Games は、『South of Midnight』の開発が完了してリリースが承認されたという、大きな節目を迎えました。
  • 『South of Midnight』は、2025 年 4 月 9 日に Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Xbox Cloud Gaming (Beta) でプレイ可能となり、Game Pass でも発売初日から配信されます。Xbox Play Anywhere を利用すれば、Xbox コンソール、Windows PC、Xbox Cloud Gaming (Beta) で完全なクロス ライセンスとクロス セーブ機能を利用できます。『South of Midnight Premium Edition』なら、2025 年 4 月 4 日より最大 5 日間の先行プレイが可能で、デジタル特典も入手できます。
  • オランダのデザイン会社兼出版社である Cook and Becker とのコラボレーションで制作された『The Art and Music of South of Midnight』が予約受付中です。このボックス セットには、美しいゲートフォールド仕様のジャケット付きでゲームのフル サウンドトラックが収録された 2 枚組 LP レコード、160 ページのアート ブック、ゲームにインスパイアされたコミックなどが含まれています。

作曲家のオリヴィエ デリヴィエ氏は、『South of Midnight』の音楽アプローチをこのように説明してくれました。「このゲームはプレイヤーと一緒に歌っているのです」

Xbox Wire 編集部は、チームにとって重要な日にデリヴィエ氏およびオーディオ ディレクターのクリス フォックス氏のインタビューを行いました。この日は、『South of Midnight』の世界同時発売に先駆けて開発がすべて完了し、「ゴールド」の認定 (マスターアップ承認) を受けたのです。この記事が公開されるころには、また新たなマイルストーンを迎えています。そう、『South of Midnight』のサウンドトラックが、主要ストリーミング プラットフォームで利用可能になりました。ですので、このゲームがまったく新しい方法で音楽を使用していることについて、お話を聞くのは、ごく自然な流れでした。

ほとんどのゲームで、サウンドトラックはムードボード (デザインやコンセプトなどの「雰囲気」を共有するために、画像や色見本、テキストなどをひとまとめにしたビジュアル資料のこと) のようなもので、プレイヤーにとって、「今は重要な戦闘中である」ことや「探索中である」といった状況を分かりやすくする役割があります。しかし、Compulsion Games は、『South of Midnight』の音楽をより複雑な形でゲームに織り込んできました。このゲームに登場する南部の伝承上の生き物 (クリーチャー) にはそれぞれコンセプトソングのようなものがあり、彼らが住む一帯をゲーム内で進むと、その曲とメロディとハーモニーが繰り返され、歌詞の一部がそよ風のように漂い、より大きな物語背景へのヒントが示されます。各エリアのクライマックスに到達し、その生き物と対峙すると、音楽は最高潮に達し、完全な曲を初めて聞くことができます。まるで音楽があなたの行動にうねりながら反応し、彼らの物語を歌詞で語りかけます。

想像できるかもしれませんが、これはかなり複雑な作業のはずです。「私が手がけた中で最大級の音楽制作でした」とデリヴィエ氏は説明します。「でも、当初はこんなふうになる予定ではありませんでした」

音楽の導入

Compulsion Games のクリエイティブ ディレクターであるデビッド シアーズ (David Sears) 氏とそのチームは、彼らが描こうとする地域の特徴、雰囲気、ストーリーを正確に捉えるために、アメリカ南部に何度も足を運び、制作の初期段階で膨大なリサーチを行いました。そして、シアーズ氏がそのような調査旅行のひとつから戻ってきた時に、あるアイデアを思いついていました。

オーディオ ディレクターのクリス フォックス(Chris Fox)氏は、すべての始まりとなった出来事を次のように語ります。「デビッドが南部への旅から戻ってきたとき、“本当に天啓を受けたような気がする。プレイヤーの行動は音楽と一致すべきだ” と言ったのです。それが最初の大きな課題でした。私はそれがどういう意味なのか、しばらく考えなければなりませんでした」

音楽は南部のアイデンティティにとって不可欠な要素であり、ブルース、カントリー、ジャズなど、そのルーツはすべてこの地域にあります。それはまさに常に南部の象徴として表象されています。しかし、フォックス氏とデリヴィエ氏に突きつけられた難題は、プレイヤーの行動、プレイヤーがいる場所、そしてプレイヤーが解き明かしているストーリー、これらと音楽が結びついていると感じられるゲームを作ることでした。

「そこで私は、“音楽ゲームではない形で、プレイ中に音楽的な仕掛けを組み込むにはどうすればいいか” と考えました」とフォックス氏は説明します。「それが始まりで、それから私たちは数多くのアイデア出しを行いました」

「デビッドが南部への旅から戻ってきたとき、“本当に天啓を受けたような気がする。プレイヤーの行動は音楽と一致すべきだ” と言ったのです」
クリス フォックス (オーディオ ディレクター)

『South of Midnight』のようなアクション アドベンチャーでこのような試みが行われることは稀であり、さらに歌詞のある曲が作られることも稀です。音楽がプレイヤーにどう反応するかの技術的なシステムを作ることも課題でしたし、その音楽がプレイヤーに背景や物語をどのように語るかということも課題でした。」

「もちろん、私たちはストーリーから始めました」とフォックス氏は語ります。「まず、南部に伝わる伝承を知る必要がありました。そこから (私たちのバージョンの) 生き物たちの物語が生まれ、次に歌詞を生み出しました。歌詞と物語は、密接に関係している必要があります。私たちは物語のチームと協力し、デリヴィエが必要な背景情報を全て把握しているか確認しなければなりません。歌詞付きのオリジナル曲の制作についていうと、こういう機会はなかなかないので、できあがったコンテンツについては非常に満足しています。何が起こるかわかりませんでしたが、最も重要なことは、みんなを信頼することでした」

この信頼により、デリヴィエ氏はさらに別の変わった仕事を任されました。ゲームの制作が「コンセプト アート」から始まることが多いのと同じように、「コンセプト ソング」を制作することになったのです。

「ゲーム内の (伝統的な) 楽曲を考える必要があったのは、これが初めてでした」とデリヴィエ氏は続けます。「どうすれば適切な曲作りを実現できるのか? 楽曲をどうアレンジするのか? 最初の出発点は、このコンセプト ソングでした。しかも、自分自身が歌って楽曲のデモを作らなければいけません。そしてどうにかデモが完成したとき、デビッドとクリスは “よし、これで制作に入ろう” と言ってくれたのです」

音楽とテクノロジー

ここから、チームは協力してゲーム本編で聴ける全曲の制作に取り掛かりました。意外かもしれませんが、少なくともデリヴィエ氏にとっては、ゲームプレイに合わせて音楽を調整するという技術的な要素は、そのプロセスの中でも比較的容易な部分だったと言います。

「ビデオ ゲームのテクノロジーは、この数年の間に飛躍的に進歩しました。今では、ゲーム内のあらゆる状況に合わせて、音楽がどのような反応を示すかを、かなり細かく調整できるようになっています。難しいのは、テクノロジーを駆使できるようになったとしても、そのテクノロジーを正しく活用するための創造性と一貫性を維持しなければならないことです。例えば音楽の場合、システムが複雑すぎて音楽的に意味をなさないようでは困ります。結局は、何年も練習や実験を繰り返すしかありません。そして、私たちはこのゲームにおいても数々の検証と試行錯誤を繰り返したのです」

フォックス氏と彼のチームが開発したシステムでは、プレイヤーが探索のために立ち止まっているのか、それとも戦闘セクションに突入しているのかをゲームのサウンドトラック システムが認識し、その状況に合わせて曲を調整し、コアとなる曲はそのままに、プレイヤーが心地よく感じられるようにしました。

「各曲を分解して、エリア内の進行に合わせられるようにしなければなりませんでした」とデリヴィエ氏は続けます。「エリアの最後で、プレイヤーはその地に住む伝説の生き物にたどり着き、その生き物のテーマ曲の演奏が最高潮に達します。プレイヤーは、エリアを進むうちに断片的にまずところどころでこの曲の一部を聞くことになりますが、最終的な曲と同じ形ではありません。ハーモニーもメロディも異なる場合があります。時にはメロディが壊れているような、歪んでいるような部分もあります。なぜなら、その土地自体に「ほころび」があるからです。プレイヤーにも (音楽を通して) そう実感してほしかったのです」

つまり、音楽をサウンドスケープ (音風景) に変えているのです。ゲームで水の中を歩くときと泥の中を歩くときでは、異なる効果音が使われるのと同じです。「デリヴィエと仕事をしたかった理由がまさにそれなのです」とフォックス氏は熱弁します。「彼はオーディオを音楽としてだけでなく捉えています。音楽がサウンド エフェクトに織り込まれ、サウンド エフェクトが音楽に織り込まれているのです。プレイヤーにとっては同じオーディオ体験であり、必ずしも分離されているわけではありません」

その考えをさらに推し進めると、『South of Midnight』の音楽はまるで重要な登場人物の一人となります。「エリアの終わりにかかる完全版の各コンセプト ソングは、常に一流の歌手や演奏家の演じたものですが、エリアの途中の歌は子供たちの合唱団によるものです」とデリヴィエ氏は説明します。「子供たちは本作を盛り上げるスターのような役割を担ってくれました。彼らはいたるところに登場し、ゲームにとって非常に重要な意味を持っています。彼らが表しているものは一種の精霊というか、”ストランズ” (Strands)というか、スピリットというか、魔法の片鱗というか、名前は何でも良いのですが、それらは主人公ヘイゼルがこの魔法の世界を通り抜けるのを助けています」

南部の伝説的な人食いワニ “Two-Toed Tom”

南部の魅力

この複雑さに輪をかけるように、フォックス氏とデリヴィエ氏にとって最後の難題が残っていました。それは、最初の調査旅行にまでさかのぼるもので、複数の地域にまたがりながらも南部であることを感じることができ、それでいて一貫したサウンドトラックにする必要がありました。

「当初は、クリスとデビッドと話し合いながら、ディープ サウス (アメリカ深南部) からインスピレーションを得て、ゲームにふさわしいユニークなサウンドトラックを作ろうとしていました」とデリヴィエ氏は説明します。

それを実現するために、彼は内側ではなく外側を見なければならないことに気がつきました。「ああ、これは生演奏を録音するための人材を雇う必要があるかもしれない、と思いました。しかし、それは私がこれまでやったことのない規模で、多数の才能ある人材が必要となり、オーケストラを含めなくても 50 人以上を巻き込みました」

これは、チームが当初予想していたよりもはるかに大仕事でした。「徐々に作業が拡大していきました」とフォックス氏は語ります。「最初は 1 時間ほどの音楽から始めましたが、それでは明らかに少なすぎました。しかしプロジェクトの初期段階では、必要なものが何なのかわからないものです」

「私が “本当にクールなアイデアがあります。音楽を生演奏にしたいのです” と言ったときに、この考えを上層部が信じてくれたことに感謝しています。また、後になってから “最初、オーケストラは使わないと言いましたが、実はオーケストラの録音をしなければなりません” と言ったときも、Compulsion Games の上層部は “これは予算に含まれていませんでしたが、君のビジョンもデリヴィエ氏との仕事ぶりも素晴らしいものです。だから、オーケストラもぜひやりましょう” と言ってくれました。Compulsion Games と Xbox が、私たちと志を同じくしてくれたことを、本当に感謝しています」

「サウンドトラックや楽曲を聴いていると、そこに人々がいることが感じられるはずです。まるで彼らがそこにいて、感情を刺激し、感動させ、物語を伝え、この世界に引きずり込もうとしているような感覚です」
オリヴィエ デリヴィエ (コンポーザー)

しかし、これだけの準備をしても、デリヴィエ氏は微妙なバランスを保つ音楽の制作が必要でした。

「南部の著名なミュージシャンたちと仕事をしたのですが、決して模倣するつもりはありませんでした。私は南部出身ではないので、それは不誠実な行為でしょう。模倣が目的ではありませんでした。インスピレーションを得て、音楽をまったく別のものに変えることが目的でした。もちろん、カントリー、ブルー グラス、ブルース、ジャズからの影響はありますが。最も良い反応を示してくれたのは、ブルースを演奏するミュージシャンやカントリーを演奏するミュージシャンでした。彼らは曲を演奏しながら “ああ、私ならこうはしないけど、これはこれですごく面白い!” と言ってくれたのです」

「彼らは普段通りに演奏していたのですが、そこに私なりのひねりを加えていました。私は彼らがその過程で少し戸惑うだろうと思ったのですが、まったく逆でした。彼らはとても積極的に取り組んでくれたのです。私にとって、この作品の成功とは、この人たちと仕事ができたこと、南部の雰囲気を作品に取り入れることができたこと、そして Compulsion Games の世界とこの音楽の世界に彼らを導くことができたことです」

その結果、南部を象徴するサウンドトラックが完成したとデリヴィエ氏とフォックス氏は信じています。しかし、それは単に南部の音楽を模倣したものではありません。南部のミュージシャンたちとの真のコラボレーションなのです。

「サウンドトラックや楽曲を聴いていると、そこに人々がいることが感じられるはずです」とデリヴィエ氏は言います。「まるで彼らがそこにいて、感情を刺激し、あなたを感動させ、物語を伝えて、この世界に引きずり込もうとしているような感覚です」

そして、『South of Midnight』が「あなたと一緒に歌っている」というアイデアに、説得力が生まれていったのです。ゲーム自体があなたと歌っているだけではなく、その音楽を作った多くの人々も実際にあなたと歌っているのです。

South of Midnight』は、2025 年 4 月 9 日に Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Xbox Cloud Gaming (Beta)、そして発売初日から Game Pass で遊ぶことができます。『South of Midnight』の不気味で幻想的な世界に早くから浸りたい方は、『South of Midnight Premium Edition』を購入して 最大 5 日間早くプレイし、デジタル特典にアクセスしましょう。

『South of Midnight』のサウンドトラックは、主要なストリーミング プラットフォームで好評配信中です。また、オランダのデザイン会社兼出版社である Cook and Becker とのコラボレーションで制作された『The Art and Music of South of Midnight』を予約注文することもできます。このボックス セットには、美しいゲートフォールド仕様のジャケット付きで、フル サウンドトラックが収録された 2 枚組 LP レコード、160 ページのアート ブック、ゲームを題材にしたコミック ブックなどが含まれています。

※この記事は米国時間 3 月 20 日 に公開された“‘Singing With the Player’: How Compulsion Games Created South of Midnight’s Incredible Music”を基にしています。