『Senua’s Saga: Hellblade II』の素晴らしい景観を支えた環境デザイン チーム

2017 年発売の『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、極めて特別なゲームでした。Ninja Theory にとって果敢な挑戦ともいえる、精神疾患にまつわる短めのナラティブな体験を作り上げるという決断は、勇気ある一歩でありながらも報われる結果となりました。それから 7 年が経った今、同スタジオはセヌアの物語の続編を発表する準備を進めています。その作品は、同様に思い入れやこだわりを込めて作られたものでありながら、考え得るあらゆる方法で前作を発展させたものとなっています。

発売されたばかりの『Senua’s Saga: Hellblade II』について、スタジオ内部からの制作秘話や、「Hellblade」シリーズのクリエイティブ リードたちからの言葉をお届けします。業界をリードする才能、画期的なテクノロジー、そして「真の没入感の追求」という究極の目標を実現するために、前例のないようなユニークなアプローチでゲーム開発に取り組んだ、Ninja Theory の究極の形がここにあります。


Senua’s Saga: Hellblade II』で描かれている環境を表現するには、「息を呑むほど美しい」と言うだけでは到底足りません。本作は一直線に進行するストーリーでありながら、この手のアドベンチャーではあまり味わえないスケール感があり、目に映るものすべてが現実感を伴った表現で描かれています。こういったゲームの多くは通路や谷などで視界を遮るものが多いのですが、『Senua’s Saga: Hellblade II』では地平線の彼方まで見渡せることが多く、セヌアの旅がどれほど壮大なものとなるかを実感できます。そのさまは、まさに本作の世界観を構築しており、プレイヤーが突き動かすセヌアの旅が、果てしなく大きな物語に根差していることを示しています。

Ninja Theory を訪問した際、私たちは本作の開発のカギを握るクリエイティブ リードたちと話す機会を得ました。スタジオとして、どのようにロケハンとリサーチを行うことで『Senua’s Saga: Hellblade II』に登場する数々の場所を説得力溢れる姿で描写したのか、そして中世のアイスランドを幻想的、まるで現実のもののように再現するのにあたって、どのような手順を踏んだのかをお聞きしました。

アイスランドという選択

前作が「ヘルヘイム」でクライマックスを迎えたのに対し、本作では北欧神話で人間の領域として知られている「ミッドガルド」が舞台となっています。チームはいくつかのロケーションの中からアイスランドを選んだのですが、アイスランドは独特で包み込むような風景が数多くあり、どことなく親しみやすさがありつつも異世界感が同居しているような場所でした。

『Senua’s Saga: Hellblade II』のとあるチャプターは、肌寒くも美しい浜辺が海岸線沿いに引かれた、アイスランド南西海岸のレイキャネス半島を舞台にしています。このエリアは広大な断崖絶壁や岩場の海岸、そして数多くの海底火山が特徴としています。あらゆる意味で荒涼としていますが、セヌアとして目撃するその景色は圧巻です。他のチャプターでは、「フレイスロイグ」にある集落という架空の場所が舞台となり、起伏のある緑豊かな丘に囲まれています。ここは、北アイスランドにある絵のように美しい温泉地帯フォスロイグからインスピレーションを得たものです。

「アイスランドの景色は、私たちが想像していたよりも素晴らしいものでした」と Ninja Theory のスタジオ ヘッドを務めるドム マシューズ (Dom Matthews) は語ります。「大自然の中なのに、まるで異なる星にいるようにも感じられます。同時に、私たちはこの風景に身近さを感じて現実のものとして受け入れる力を持ちます。違和感なく実在の場所として認識できてしまうのです」

「アイスランドの景色は、私たちが想像していたよりも素晴らしいものでした。大自然の中なのに、まるで異なる星にいるようにも感じられます」

ドム マシューズ (Dom Matthews)

『Senua’s Saga: Hellblade II』の環境デザイン チームは、実在する物理オブジェクトをデジタル データとして取り込みつつも、自然らしさを維持するという精神に則ってデータの収集を続けてきました。環境アート ディレクターであるダン アットウェル (Dan Attwell) によると、本作では 370 個以上のフォトグラメトリーが使用されています。

スタジオ内を見回すと、アイスランドの本物の岩が散乱しており、今でも参考用に使用されています。現地で素材を集めるのは大変な作業でしたが、その甲斐あってリアルな質感を求める過程で作ることになる模型などを準備する際のリソースが少なくて済みます。アットウェル氏も次のようにコメントしています。「手作りの模型では得られないレベルのリアリティが、実在のものを参考にすることで得られます」

『Senua’s Saga: Hellblade II』の VFX ディレクター、 マーク スレーター ターンスティル (Mark Slater-Turnstill) は、世界構築の別の側面についても語ってくれました。自然とは基本的に、意図的に混沌としていて予測不可能なものであり、それを人の手で再現するのは難しいことだと彼は言います。人間が岩や木を想像して作り出そうとすると、少々「らしすぎる」ものになってしまうことがあるそうです。

スレーター ターンスティルはさらに、「人間というのは、あるものについて考えるとき、頭の中でビジョンを思い浮かべます。が、実際のものとはかなり異なっているかもしれないのです」と付け加えます。

見た目と異なる景色

「現実を曲げる」といえば、セヌアの精神病体験により、周囲の空間は必ずしも見た目通りではないことを意味しています。 環境や視覚効果の大部分が現実的なものを再現していますが、セヌアは自身の症状によって現実を超えた体験をすることになります。彼女が見るビジョンは、ゲームプレイのメカニズムと巧みに結びつき、周囲の環境を変化させていきます。

マシューズは、「リアリズムと信じられるものはそれぞれ別のものです。ファンタジー要素が組み込まれたものでも、信じられるものになり得るように」と述べています。「あなたはセヌアの視点を通して世界を理解しようとするわけですが、こうした体験が精神病を持った人にとって、まったくあり得ない話ではないということが重要なのです」

こうした表現は、絶妙なバランスの上で成立するものです。セヌアの視点は彼女にとって真正かつリアルである必要があり、同時にプレイヤーにとって驚きを感じられるものである必要があります。スレーター ターンスティルが自身の作業場で実演してくれたのは、まさにこのような演出でした。彼はセヌアを何気ない岩へと導くと、岩がまるで何事もなかったかのように、石でできた人の頭に変形し、最終的にこれまで見えていなかった新たな道が切り拓かれていきます。スレーター ターンスティルはおそらくこの特定のアニメーションを何度も見ているはずですが、それでもその一部始終を眺めつつ、笑みを浮かべるのです

「実際に精神病を体験しているかのような、本物らしい体験を作り出すために、既存の環境から何が活用できるか検討しました。具体的には、見覚えのある対象物を不自然な形で描くこともありました」とスレーター ターンスティルは説明してくれました。「非現実的に見えるものが、セヌアの見ている世界おいては現実となり得るのです」

セヌアを通して見る、非現実の入り混じる現実世界は、ゲームプレイの観点から見ても非常に役立つガイドラインでもあります。本作では、道を案内するマップやインターフェイスはなく、ゲーム内ではオーバーレイがひとつも表示されていません。このことが自分たちの仕事をかなり難しくした、と環境アート ディレクターのアットウェルは笑いながら言いました。

進め方の手がかりは、すべて音声や視覚的手段で示されており、それが直感に訴えるような形でデザインされているため、どこに行けばいいのか迷うことはほとんどありません。同時に、風景の中を進む本作の物語の道筋は、次に何が起こるか予想ができないようにうまく作り込まれています。大きな広場に出ると戦闘のロード画面に切り替わる……といった場面もありません。シームレスな冒険であり、地上の世界であろうと、セヌアの超自然的な内面の風景であろうと、シーン間の遷移はすべて意図して流動的に描かれています。

『Senua’s Saga: Hellblade II』における環境デザインは最高峰のものであり、開発チームは景観に求められているエッセンスを巧みに取り入れ、神話的な魔法を絶妙に織り込むことで、魅惑的なアドベンチャー ゲームに仕上げています。フォト モード愛好家にとっても、夢のような体験となるでしょう。

このゲームのデザインについてさらに知りたい方は、セヌアのキャラクター進化に関する記事をご覧ください。

Senua’s Saga: Hellblade II』は、Xbox Series X|S、Windows PC、Steam、Game Pass、Xbox Cloud Gaming(Beta)向けに好評発売中です。

※この記事は米国時間 5 月 20 日 に公開された“The Wanderers – The Team Behind Senua’s Saga: Hellblade II’s Incredible Landscapes”を基にしています。