『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』: 80 年代映画の魔法を 2024 年発売のゲームに
映画「インディ・ジョーンズ」シリーズには特有の手触りがあります。それは物語やヒーロー、音楽といった具体的な要素だけでなく、撮影方法や振り付けの細部、そして物語のトーンにも現れています。言葉だけでは表現しきれない性質が、このシリーズが往年のファンに現代に至ってまで愛され続ける理由であり、同時にビデオ ゲームで再現することを非常に難しくしているハードルなのです。
『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』の開発者である MachineGames は、現代的なゲーム、それも卓越した体験を生み出すだけでなく、同時に「インディ」映画の魔法もゲームに詰め込む、という新しい挑戦に直面しました。これは、映画からインスピレーションを受けたゲームがどのように見え、感じ、動き、そして音を表現するか、というバランスの問題に帰着すると筆者は考えます。
MachineGames の開発者たちに話を訊くと、絶妙なバランスを実現するための努力の一環として、現代のゲーム デザイン手法と伝統的な映画製作技術の二つを組み合わせて、どのようにこの目標を達成したかがわかります。
「インディ」作品の思慮深さが感じられる瞬間の中で、おそらく最良の例の一つは、まるで偶然の産物のように見えるかもしれません。
「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」には、おそらく映画史上最も有名なジョーク シーンが含まれています。群衆が分かれ、我らがヒーロー インディはシミターを振り回す不気味な剣士と対峙します。剣士は暗く笑い、手の中の剣を淀みなく躍らせ、その一挙手一投足が、この戦いがどれほど厳しいものになるかを示します。インディは顔をしかめ、リボルバーを取り出し、あっという間に一発の弾丸で彼を倒します。観客である私たちは華麗な戦闘シーンになると思っていたものが、パンチラインに早変わりします。完璧な演出です。
こうした掛け合いは、ビデオ ゲームでは本来うまく表現できない種類のシーンです。なぜならこのシーンは、実質的にボス戦へのイントロであるべきなのです。この不気味な剣士は複数の攻撃パターン、3 つの異なる体力バーを持っているべきなのです。そして、開発チームが直面した挑戦のひとつとして始まったこのシーンとの邂逅が、解決策の足掛かりとなりました。
「あのシーンは、『インディ』映画で体験できるお約束ともいうべきユーモアの一例です。右に並ぶものはありません!」とクリエイティブ ディレクターのアクセル トルヴェニウス (Axel Torvenius) 氏は言います。「私たちがあのシーンや類似のシーンから受けたインスピレーションは、まさにそのユーモアです。多様で、魅力的で、報酬のある戦闘遭遇をゲームの中に創り出すことは非常に重要でしたが、同時にそれに『インディ』ならではのユーモアを加えることも大切でした。」
より視点を広げると、このスタンスは MachineGames のアプローチについて多くを語っています。ほぼすべての要素で、開発チームは「インディ」映画の魔法を捉えるために並々ならぬ努力を重ねてきました。その結果が、ゲームとは適合しない場合でも、新しい形で作品に取り込んでいきました。
当時を完璧に再現したルック
「80 年代映画であるオリジナル作品のルックと手触りにゲームそのものをできるだけ近づけることは、最初から正確に行いたいと思っていました」とトルヴェニウス氏は説明します。「『インディ・ジョーンズ』のルックと手触りをゼロから改めて生み出すことには興味がありませんでした。本作の核心的な野望は、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』に近いスタイルを確実に踏襲することなのです」
その努力がどれほどのものだったか、驚かれるかもしれません。開発チームは初期の映画をトーンや脚本だけでなく、技術的な詳細に至るまで精査しました。どのようなカラー パレットやカラー グレーディングが使用されていたのか? カメラにはどのようなフィルム ストックが使われていたのか? オリジナルの音響チームはどのように音響効果を録音したのか? どのようなスタントが行われたのか? そしてそこから、これらのオリジナル技術を現代の文脈だけでなく、まったく異なるメディアであるゲームへと翻訳するための取り組みが始まりました。
ここで聞いたいくつかの話は特に印象深いものでした。トルヴェニウス氏は、開発チームがオリジナルの映画撮影班がどのようにセットを作成したかを研究し、そのルールをゲーム内の場所に適用したと説明します。
「ゲームというメディアでは、常に『舞台裏』に忍び込むことができるという大きな特徴があります。自由に歩き回り、意図的にデザインされていた構図を崩すことができます。しかし、ゲーム全体を通して見れば、プレイヤーがどの方向から現れ、どこへと出ていき、そしてその結果どのような風景を見るかが明らかな場所がたくさんあります。だからこそ、私たちはそれらを早期に特定し、それぞれのシーンでより練りこまれた体験が得られるようにと開発を進めました。」
カットシーンにおいては、その普段より制御されている体験である性質から、チームはさらなる策を講じることができました。「このプロジェクトのために行ったもう一つの大きな判断は、モーション キャプチャー スタジオにおけるすべてのシネマティック撮影のために撮影監督 (DP) をセットに配置したことです」とトルヴェニウス氏は続けます。「才能豊かなカイル クルッツ (Kyle Klütz) 氏 が私たちと共に、モーション キャプチャー スタジオで巨大かつ重量級のカメラ ドリーを操作し、パン、角度の動き、構図、フレーミングの適切な速度を維持しつつ撮影を行いました。このデータをゲーム エンジンのカットシーン ショットへと転送することで、初期の『インディ・ジョーンズ』映画を思い起こさせるようなカメラ ワークへの重要な第一歩とすることができたのです。」
絶対音感
「インディ・ジョーンズ」にとって、見た目と同じくらい音も重要です。ジョン ウィリアムズ(John Williams) 氏の象徴的なスコアから、効果音の手触り、そして有名な音響素材「ウィルヘルムの叫び」 (ゲームにも登場します) まで、映画の音響風景は見た目や物語と同じくらい懐かしまれているものです。
「最初に行ったのは、『インディ・ジョーンズ』の音の核心的な要素を特定することでした」とオーディオ ディレクターのピート ウォード (Pete Ward) 氏は言います。「映画の中のインディとしてプレイする感覚を呼び起こすために、何を確実に再現しなければならないのか? 私たちはチームとして集まり、すべての『インディ』映画を連日観賞し、インディの声の類似性、音楽のスコア、鞭、リボルバー、パンチなど、絶対に正確に再現しなければならない音の要素がいくつかあることに気付きました。他にも、パズルの音やファンタジー要素など、常にオリジナル映画のサウンド デザイナーであるベン バート (Ben Burtt) 氏のサウンド デザインを研究しました。」
ウォード氏のチームは予想外な道を進むことになりました。目標は映画の効果音を直接再利用することではなく、ゲームのニーズに応じてできるだけ忠実に音を再現することでした。これは、場合によっては 40 年以上前にオリジナルの映画チームが使用した技術へと立ち戻ることを意味しました。
「鞭、フェドラ帽、革のジャケット、そしてさまざまな種類の靴をさまざまな表面で使用して、何百時間ものオリジナル音源の録音を敢行しました」とウォードは続けます。「特に衝撃音に関しては、バート氏と彼のチームが元々使用した技術、例えば野球バットで革のジャケットを叩くなどの古典的な技術を採用しました。また、金属のバネにコンタクト マイクを取り付けて弾くなど、可能な限り実用的な手法を使用し、古き良き時代の雰囲気を取り入れてきました」
その結果、80 年代の映画を思い起こさせるようなサウンドスケープを持ち合わせたゲームが完成しました。ある種、自然な音のデザインですが、注意深く聞くと、現代のほとんどのゲームとは異なる形で音がデザインされていることが感じられるようになっています。
スコア (劇伴) についても同様です。ジョン ウィリアムズ氏のサウンドトラックは映画史上最も認識されているものの一つですが、目標は単にそれを模倣することではありませんでした。MachineGames は作曲家のゴーディ ハーブ (Gordy Haab) 氏を招きました。彼はウィリアムズ氏から多大なインスピレーションを受けながらも、自分自身のものにすることで複数の「スター・ウォーズ」ゲームで賞を受賞しているため、本作には適任でした。
「ハーブ氏はこのプロジェクトで一緒に仕事をするうえで素晴らしい作曲家でした。彼は私たちの目指したスタイルとトーンを見事に捉え、必要に応じてオリジナルのスコアをなぞり、さらにはそこからシームレスに拡張することができました。また、『インディ・ジョーンズ』の世界に適合する新しいテーマも作曲しました」とウォード氏は熱心に語ります。「私たちは特定のテーマを初めて聞く場所とタイミングにも非常に注意を払いました。『レイダース・マーチ』は『インディ・ジョーンズ』の象徴的で即座に認識されるテーマであり、適切な瞬間にそれを取り入れたいと考えましたが、ハーブ氏の作曲した新しいテーマを使って独自の音楽ストーリーを展開することも視野に入れていました」
しかしながら、象徴的なスコア群の中に新しい要素を取り入れることは、新要素がひどく目立ってしまうリスクを生じさせます。MachineGames はこれが起こらないようにするためにも多大な努力を重ねました。ハーブ氏とウォード氏はオリジナルのサウンドトラックがどのように録音されたかを調査し、同一のスタジオである「アビー・ロード」で新曲を録音しました。そして驚くべきことに、彼らはその途中でオリジナル楽曲との新たなつながりと巡り合うことになります。
「『レイダース』のオリジナル セッションで演奏したセッション ミュージシャンが数人参加していたのです」とウォード氏は説明します。「セッションが終わった後、彼らがコントロール ルームに現れ、それを伝えてくれたときは実に素晴らしい瞬間でした!」
物語を語る
見た目や音に関しては、過去の作品を振り返り、忠実に「インディ」らしくすることができましたが、『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』の物語はまったく新しいものでありながら、シリーズやゲームの設定(『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』と『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の間)に適合するものでなければなりません。リード ナラティブ デザイナーのトミー トードソン ビョーク (Tommy Tordsson Björk) 氏にとっては、音の探求とは異なる種類の研究が必要となりました。
「『インディ・ジョーンズ』には、映画、コミック、ゲームなど、さまざまな形で豊かな物語が存在しています。これらを掘り下げることで、プレイヤーをインディの世界に没入させるだけでなく、異なる物語やキャラクターをつなげることができました。この点で、ルーカス フィルム ゲームズとの素晴らしい協力関係が非常に役立ちました。」
「そこから、世界観を構築する際の多くの作業は、舞台となる 1930 年代を研究し、その成果を『インディ・ジョーンズや、1930 年代を舞台とする冒険映画のレンズ』とでも呼ぶべきものを通してフィルタリングすることに費やされました。これにより、この世界の物語が歴代の『インディ』作品と比較しても遜色なく感じられるようになりました。」
こうした徹底は、「インディ」シリーズにだけでなく、設定された時代に対しても見受けられます。キャラクターの話し方、周囲の環境、さらには時代に適したスペルである「ギゼー (現代ではギザ)」の採用などがそれにあたります。MachineGames と、そのメンバーの多く (ビョーク氏を含む) が Starbreeze Entertainment と関わってきていることは、チームが『リディック』や『ザ・ダークネス』などの確立されたフランチャイズでの実務経験を持っていることを意味し、この新しい試みにもその経験が生かされました。
「私たちがすべてのゲームで採用してきたアプローチは、オリジナルの素晴らしさを忠実に再現することです。すでに語られたことを繰り返すのではなく、同じトーンと精神を呼び起こす、新たな領域へと物語を進めることなのです」とビョーク氏は言います。「本作の開発から学んだことは、キャラクターを物語とゲームプレイの両方において常に主体とすることの重要性でしょう。なぜならば、『インディ・ジョーンズ』というフランチャイズは、これまでに私たちが取り組んできたゲームよりもはるかに強く、主役であるインディとその人柄によって定義されているからです」
歴史と戯れる
そしてこれが、開発の最後のピースである、いわば映画シリーズの歴史をプレイ可能な体験へと変える方法へと繋がります。映画の持つ緊張感ある編集と線形の物語を、インタラクティブな体験に落とし込むにはどうすればいいのでしょうか? プレイヤーがそれぞれ少しずつ異なる選択をし、自分なりのインディ・ジョーンズを導いていく中で、その過程をどう再現するのでしょう?
解決の糸口は、ゲーム体験の多くを現実のパフォーマンスに基づいて構築するという、「映画制作に立ち返る」アプローチにありました。
「このゲームでは本当にたくさんのモーション キャプチャを行いました! これまでで最も多くのモーション キャプチャとスタントを撮影したと思います」とトルヴェニウス氏は言います。「ゲーム内のいくつかのシーンは、スタント的に見ても非常にクレイジーです。いくつかのシーンは、ストックホルムの Goodbye Kansas で撮影が行われました。Goodbye Kansas は天井の高さが約8メートルもあり、実行に高さが必要なスタントのための場所だったのです。
「制作の過程で、才能あるスタントマンやスタントウーマンらと協力し、タレント ディレクターのトム キーガン (Tom Keegan) 氏と共に、MachineGames 史上最も力強いアクション シーンを生み出せたと自信を持って言えます。初期の『インディ・ジョーンズ』映画のスタントやアクション シーンの見た目や感触を捉えるため、MachineGames の 様々なメンバーが総力を挙げて取り組んできました。特にアニメーション ディレクターのヘンリック ホーカンソン (Henrik Håkansson) 氏やシネマティック ディレクターのマーカス セーデルクヴィスト (Markus Söderqvist) 氏が、アニメーションの見た目や手触りの最終化において重要な役割を果たしています。そして、オーディオ ディレクターのウォード氏とその部門による音声作業も、すべてが映画らしく聞こえるための重要な役割を担っています」
さらには、単純なパンチを繰り出すような小さな要素にも細心の注意が払われています。
「戦闘が楽しく、やりがいがあり、入り込みやすくも、難易度を上げると相応に習得が難しく感じられることが非常に重要でした」とトルヴェニウス氏は説明します。「特に肉弾戦では、あの映画的な感覚を捉えたかったのです! 重厚かつ映画ならではのインパクトある音、パンチを顔に当てたときの汗や唾の飛び散りの表現や、印象深いアニメーションや迫力ある相手が向かってくる様子など、全てが体験において重要でした」
こうした徹底した考え方は、ゲーム全体にわたって反映されています。パズルは「インディ」映画に相応しい雰囲気を感じられるかどうかを重視して設計され、ロケーションも現実世界と映画セットの両方を感じさせる工夫がなされています。さらには、どんな使い捨てアイテムでもほとんどの場合は武器や囮として使用できる仕組みは、「インディ」映画のコミカルな精神から着想を得ています。
「『インディ・ジョーンズ』の核となる要素のひとつは間違いなくユーモアです。それは本作のあらゆる側面で一生懸命に追求しました。環境を通じたストーリーテリング、脚本や音声、カットシーンやストーリーの展開、さらには戦闘のような瞬間的なゲームプレイでも伝わるべき要素です。そして、それは戦いに使用できる道具だけでなく、エンジニアやアニメーション チームが興味深く、楽しいフィニッシュ アニメーションを作り上げるために費やした多大な努力にも関係しています。さらに、最高のオーディオも! それらが入ったカクテルを適度にシェイクすると、Voilà!とても素晴らしいものが出来上がります!」
そうして、私たちはあの不気味な剣士との象徴的なシーンに戻ってきます。普通のゲームでは、そのシーンがゲームの文脈にうまく翻訳されるとは限りません。しかし、『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』ではどうでしょう? MachineGames は調査、努力、そして献身を注ぎ込み、壮大なパズルを解いているときも、スラップスティックな戦闘のさなかにいるときも、このゲームがあの伝説のクラシック映画に相応しいものだと感じられるように仕上げています。
『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』は、12 月 9 日に Xbox Series X|S、Windows PC、そして Steam で発売され、Game Pass にも対応します。プレミアム エディション、もしくはコレクターズ エディションを購入した場合、12 月 6 日から最大で 3 日間のアーリー アクセスがお楽しみいただけます。
※この記事は米国日時 11 月 25 日に公開された “Indiana Jones and the Great Circle: Bringing ’80s Movie Magic to a 2024 Game” を基にしています。